【こぶ平レポート】慶應義塾大学(Bブロック1位) 対 獨協大学(Aブロック2位)|「男子」大学ラクロス 〜関東FINAL4の劇的ドラマ〜
Photo by Akie Umeda
全国で、全日本大会への進出を決める中、第13回全日本大学選手権は新しい形式で始まる歴史的大会となる。即ち前年度優勝地域の2位校がワイルドカードで出場できることになり、合わせて昨年まで行われてきた中四国地区 vs 東北地区 の2地区代表決定戦がなくなり各地区が支部となり7支部8校の代表が戦う現状最も理にかなった大会形式になった。そして、10月15日16日に実施された関東支部(今後は都合上関東地区とする)のファイナル4は勝てば全国大会への出場権が得られる、事実上の決勝戦という位置づけとなった。そして其れが故に全ての試合が勝負に拘った、激しく熱い戦いとなった。先にお伝えした女子編に男子編1に続き関東ファイナル4最後の戦い。ここでも新たな歴史が関東地区のページに追加された。今回はその試合の様子を詳しく振り返りたい。
慶應義塾大学(Bブロック1位) 対 獨協大学(Aブロック2位)
この組み合わせを見た、関東地区以外の全国のラクロスファン、のみならずラクロス関係者の皆さんも、獨協大学は初めて見る名前の大学だなという感覚の方が少なくはないだろう。まずは良くご存じない方の為に獨協大学という大学を(勝手に)紹介させていただこう。(以下は獨協大学のHP;からの情報です)獨協大学は1883年(明治16年)に設立された獨逸学協会学校を起源とし、1964(昭和39年)年に開学された埼玉県草加市に本拠を置く大学だ。ホームページには「 獨協大学の「学則」第一条は、本学が社会の求める学問を研究、教授することで人間を形成すること、学園の伝統である外国語教育を重視すること、内外の複雑な情勢に対処できる「実践的な独立の人格」を育成することを定めています。」とある。それが故に世界の多くの大学と交流協定を結んでいるグローバルな大学で、東京都に本社がある企業からの評価も非常に高いものがある。規模は、8000人強の学生数の大学である。規模としては横浜国立、学習院大学同様の中小規模(大規模は1万人以上と定義させていただく)に位置づけられる。全国的にみても中小規模の大学がTOPに絡むケースは多くない。(大規模校の少ない九州、中四国、東北、北海道地区でも大規模校が優勢だ。)しかし、関東では近年男女とも中小規模の大学の進化に注目が集まっている。先に挙げた、横浜国立大学や学習院大学もそうだが、昨年ファイナルまで進んだ武蔵大学は4000名規模の小規模であり、男女とも実力の高い成蹊大学もそうだ。唯一一橋大学は以前からラクロスに強く、近年は女子ラクロスも強化されている。そして昨年の武蔵大学に続き獨協大学が中規模大学ながら、部史上初めてファイナル4に進出したの今季1番の関東地区でのサプライズとして受け止められていた(獨協大学の関係者の皆様すみません)。獨協大学が如何にして、ファイナル4に進んだのか、その戦略等については、又別のコラムで解説したい。初めてファイナル4に臨む獨協大学について、最初に紹介しておかなければならないのが、「勝手予想」でも触れた、「ブロック戦1試合平均得点4.7」という史上最少得点でのファイナル4への進出劇だったという事だろう。従って試合前の勝手予想では、「獨協大学の守備が慶應義塾大学に通じるのか」との疑問を呈する形になっていた。実際に試合前の話の交換で関係者から自虐的に「史上最大の点差で負けるかもしれない」という言葉が漏れていた。(もちろん、言葉と裏腹の闘志が伺えたのだが。)一方の慶應義塾大学は厳しいと言われたBブロックを無敗で通過し、前年度日本一の矜持を見せつけたチームであり、今年のテーマ「プライド」を胸に進化してきたチームである。最初から、打ち負かすという気持ちがみなぎっていたように見えた。そんな思惑が交錯する中1Qが始まった。
1Q
まず慶應義塾の33番フェイスオファー石井選手がその強さを見せるも、最初のターンで獨協のディフェンスに対し様子を見ようとした慶應義塾に対し獨協SSDM9番高橋選手が仕掛けボールダウンを誘うと、スクープした獨協がターンオーバーをした。まずはグラウンドボールへの寄せの的確さを見せた獨協。様子見の慶應義塾はハーフコートのディフェンスでまずは対応した。クリアからポゼッションを取った獨協は「ボールキープのマイスター」と(私が勝手に)名づけられたキープで隙を狙ういつもの展開に持ち込む。ポゼッション1分半、ストーリングの警告が出ると動き出しゾーンの隙を狙うが慶應義塾の守備の寄りは速く、3人のディフェンスに刈り取られ最初の獨協の攻撃が終わる。しかし、ここに獨協のファイナル4初の舞台という気持ちが出てしまったと見ている。というのも試合前観客席からも出ていた獨協大学のもう一つの異名「ストーリングの鬼」(これも私がデフォルメした呼称だが)らしくない攻撃のタイミングだったからだ。ブロック戦ではストーリングが出ても攻撃の隙ができるまでボールキープを続けて相手がじれてくる一瞬の隙に集中力を見せていたのが、逆に慶應義塾に誘われた攻撃となり不発に終わった。この最初の攻撃には前途の不安を禁じえなかった。対する慶應義塾も7番小川選手や30番斎藤選手といった良いシューターを持つが故に、出だしはポゼッションに時間をかけ緩急を付けながらショットの機会を得る形で進めて行く。そして最初のショットはゴール裏0番から右45度7番への速いパスから生まれた隙に放たれたものだったが、これはゴーリーもコースを固めセーブする。クリアへはライドを仕掛けない慶應義塾。獨協のボール回しに対してゴール付近でのディフェンス強度を高めていく。そして1Q 5分経過のポゼッション中の段階で異例のタイムアウトを取得した獨協。改めてポゼッション確保の徹底を確認されたのではないかと考えられた。再開された攻撃ではストーリング警告発後も慎重にボールを回す獨協にこらえきれず仕掛けた慶應義塾。1度はライドが奏功するが獨協がダウンボールをスクープしブレイクした守備の隙を狙ってショットを打つがセーブされた。それでもこの獨協の攻めこそ獨協の狙いの攻撃だったと言える。
しかし、慶應義塾も想定内だったのだろう。クリア後はポゼッションからの攻撃。今度は1on1を仕掛ける。ボールを持った11番貝柄選手(U21世界選手権日本代表)が獨協最強の18番辻野選手(X Games SIXIES日本代表)に仕掛け、いきなりの代表選手同士のマッチアップ。互いに譲らない攻防も貝柄選手がターンでわずかに交わしクリース際巧みに抜け最後は倒れこみながらのショットを決める。ここはBブロックで揉まれた強さを発揮した部分だった。1Q半分経過してようやく動いた試合は、慶應義塾ペースになっていく。フェイスオフを取るとポゼッションから慶應義塾3番藤岡選手(2年生;U21世界選手権日本代表) が獨協の守備9番の選手の陰からショットを繰り出す男子ならではの攻撃でゴーリーのセーブを許さず。得点を畳みかけた。その後も慶應義塾は個の仕掛けを軸にブレイクを狙う。獨協がそれに耐えて逆襲の機会を狙うという展開になった。この展開は明治大学vs早稲田大学の1Qの展開に似ているようだが、じっくりと削り取り仕留める強さと精度を示した事で慶應義塾が確実に流れを作ったと言える。そして3連取のフェイスオフからのポゼッション。ゴール裏からの仕掛け等で獨協の守備に的を絞らせず、ゴール裏で強さを見せる1番中名生(ナカナオ)選手からセンター30番齋藤選手へのフィードが通りDFを交わしてターンショットを決める。残り60秒慶應義塾のパスミスから獨協ゴーリーの相手ゴールを狙わんばかりのパスをカットしたDFからのパスを受けた慶應義塾3番藤岡選手は獨協ゴーリーが前へ出て無人となったゴールへ40mのロングショットを決めたのはパスカットから2秒後だった。 合計得点 4 対 0 で1Qを終えた。
1Qのスタッツ 得点4対0、ショット数 6 対 1、慶應義塾のショット成功率 67%。これが明治大学 vs 早稲田大学戦との大きな違いとなった。
完全にゲームをコントロールした慶應義塾に対して、獨協のボールキープは2度しか許されなかった。獨協にとっては想定内ではあったが厳しい立ち上がりとなった。
2Q
開始から1Qの様相と変わらず慶應義塾がフェイスオフを取り攻め立てる。獨協は守勢に回り、ゴーリーのセーブが目立つ展開。わずかな攻撃機会も慶應義塾の速いライドに刈り取られショットまで持ち込めない。慶應義塾の確実に攻め、独協の守備を削り取る形が続いた。そして5分には慶應義塾30番齋藤選手が裏から捲り追加点を挙げる。その後初めてフェイスオフを獲得した獨協だが、慶應義塾のDFにボールを刈り取られショットには行けない。しかし、獨協も前からプレスを掛ける形で攻撃の機会を奪おうとする姿勢を見せる。さらにLMF18番辻野選手を攻撃に投入する積極策に転ずる。そして18番がショットを打つ。何とか打開しようとする姿は初のファイナル4へ挑戦する姿勢として鮮明に記憶に残っている。そして、慶應義塾の攻撃が集中力を欠く中、獨協の攻撃が積極性を増し、57番のプッシュ&ターンからDFを交わしてのインサイドブレイク、こぼれ球スクープからの18番の2本目のショットと集中力の高い攻めが見られるようになった。続くターンでは46番へのフィードからセンターブレイク、も修羅場を抜けてきた慶應義塾13番ゴーリー中西選手を抜くことはできない。そして中西選手のパスカットでピンチを凌ぐ慶應義塾。最後は慶應義塾のショットを獨協ゴーリー0番千田選手のセーブで終了する。この2Qは獨協0番ゴーリー千田選手の積極的な動きや18番LMF辻野選手の攻撃参加等獨協の積極策が目についたクォーターとなった。 3Qは1対0、トータル 5対0 で終了する。
スタッツはショット数 慶應義塾6 対 5 獨協 と互角になっている。
3Q
ここまで5対0と確実にゲームをコントロールしてきた慶應義塾だが、2Q後半には獨協の積極策に守勢に入る場面が見られその打開策に注目をしていた。さらにハーフタイム中の慶應義塾のクロスチェックによる反則で3分のマンダウンで始まると、獨協も18番投入のまま焦らずボールキープから、一転ゴール前46番白濱選手へゴール裏22番からピンポイントで高速フィードが通りDF2枚を交わしてゴールを決めた。マンアップのタイミングで決め切ったゴールでさらに獨協の意気が高揚した。まだマンアップ1分のところ、逆に入れ込みすぎてフェイスオフを反則で慶應義塾ボールにされるも、18番が守備でも強さを見せ相手を追い込み攻撃に繋げる良い展開を継続する。しかし、この苦しい5分間を凌いだ慶應義塾。しかし獨協もストーリングを辞さない攻めを続ける。一進一退となった攻防をブレイクしたのは慶應義塾7番小川選手。その卓越した技術で右サイド相手DFを交わし、左上隅に決めたショットはゴーリーも反応できないものだった。しかしその後も獨協はポゼッションを確保し攻めに向かうが反則を得たところで3Qが終了する。 3Q 1対1 トータル 6対1
スタッツは ショット数 慶應義塾 6対 3獨協、フェイスオフは 1対1(クォータ開始のフェイスオフは2Q反則の獨協ボール。)
4Q
1対6ながら獨協が慶應義塾と互角の戦いモードに切り替わって始まった第4Q。獨協のマンアップで始まったクォータは、獨協がポゼッションから1点目と同じ裏の22番から今度は同じサイドのインサイドへ飛び込んだ57番阿部選手へピンポイントのフィードが通り鮮やかにゴールを決めた(慶應ゴーリーは93番に変わっていた)。マンアップを確実にものにした獨協の追い上げが始まるかに思われた。しかし何とか次のフェイスオフを取り切った慶應義塾は速攻に転じ獨協を脅かすと1番中名生選手がこの試合3度目の裏からのまくりを決め切って流れを引き戻しにかかる。この時点で残り11分あるところ、慶應義塾はディフェンスの布陣を大きく変えている。そのDF陣が頑張り前方へフィードしてクリアから、ゴール前37番-7番の瞬時のフィードをダイレクト気味に振りぬいた7番小川選手が決定的な得点を挙げる。この時点で残り6分少々となった。ここからは、布陣を変えた慶應義塾に対して猛攻を仕掛けた獨協が、18番、46番、7番小林選手、57番が追加点を加えたが時すでに遅し。慶應義塾が 8対6 で逃げ切った。究極のボールキープ作戦で新たな歴史の扉を開いた獨協大学の挑戦はここで終了した。
こぶ平’s View
慶應義塾大学追い上げられたが、、、、
勝手な予想でも述べていたが、 “獨協大学の守備が通じるかどうかが焦点” だった試合。2Q、3Qの獨協大学守備陣の対応はファイナル4への進出がフロックではなかった事を証明するものだったと言える。しかし実際には4Q 8分経過で8対2というのが正直な結果ではある。以降は慶應義塾大学が若手のチャレンジと位置付けた布陣で臨んだ結果と見るのが正しい。しかし、獨協大学が評価されるべきポイントは2つある。
守備を支える0番ゴーリー千田選手は2年生であり、彼を要とする守備は組織として大崩れすることはなかった。もちろん18番辻野選手という日本代表を務めるリーダーがいたことは大きいがその他すべてが2,3年生で構成されていることを考えると、意識も共有されて良いものだった。来期、個の力が強化されれば1on1の局面でも守り切れると期待できる事。
4年生が実質、57番阿部選手と18番辻野選手と2名しかいない布陣でよく戦えたこと。さらにその若い選手中心で、慶應義塾が若い選手中心の布陣に変えた残り7分間は圧倒できる力を示したことは来期には「ボールキープのマイスター」「ストーリングの鬼」から攻守バランスの取れた良いチームになりえる大いなる可能性を見出せた事。
一方の慶應義塾大学については、昨年から大幅に変わった守備陣も確実に機能し崩れない。攻撃も個の力を駆使すべきところでは決定力を見せ、危なげない勝利を得たと言える。ただ気になったのは2Q〜3Qの停滞だろう。下記を見てもらおう
1Q | 2Q | 3Q | 4Q | 合計 | ショット決定率 | ||
慶應義塾 | 得点 | 4 | 1 | 1 | 2 | 8 | |
獨協 | 0 | 0 | 1 | 5 | 6 | ||
慶應義塾 | ショット数 | 6 | 6 | 6 | 5 | 23 | 35% |
獨協 | 1 | 5 | 3 | 10 | 19 | 32% | |
慶應義塾 | ファイスオフ | 4 | 2 | 1 | 1 | 8 | |
獨協 | 1 | 0 | 1 | 6 | 8 | 2回はFOなし |
※第4Qの慶應大学のフェイスオフは第3Qまでと異なった選手により行われている。
慶應義塾の2Q〜3Qのショット決定率が大きく下がっている。1Qの展開で勝てるという予測がされたのかもしれないが、関東地区決勝戦での明治大学のディフェンス強度を考えた時危惧されるポイントだろう。しかし1番中名生選手、3番藤岡選手、7番小川選手、30番齋藤選手のアタック陣は決定力を持つ強力な布陣であるし、33番石井選手のフェイスオフも又強力な武器となるはずだ。ただし、若手に切り替えた4Q後半において若手中心の獨協大学に6分間で4点を献上した点は気にかかる所だ。
トリビア
慶應義塾大学の7番小川選手は慶應義塾ニューヨーク学院出身で、アメリカではテニス等多くのスポーツを経験していたという選手。慶應義塾ニューヨーク学院出身者は10人程度だが33番石井選手とともに1年生から鍛え上げられてきた選手だ。そして、慶應義塾高校のラクロス部がリーグ戦で大学チームと戦っているとは言え、慶應義塾大学ラクロス部の中で生き残る選手が多いわけではない。むしろ4年生まで続けられるのはわずかな選手になるようだ。
この試合で活躍した、獨協大学18番数少ない大学生日本代表の辻野選手は先に紹介した明治大学88番の不破選手同様埼玉県立伊奈学園総合高校の出身だが、伊奈学園総合高校は女子ラクロスの強豪校の一つだ。そんな伊奈学園から2名ものファイナル4への到達者がいたというのは、伊奈学園恐るべし。
獨協大学の活躍に関しては明治大学の活躍とともに、今期の振り返りとして、又別途フィーチャーしていきます。
かくして、関東学生ラクロス男子決勝は 明治大学 対 慶應義塾大学 という昨年のファイナル4の再現となった。昨年のファイナル4では 3 対 7 で慶應義塾大学が勝利している。しかし過去のリーグ戦においては2013年のリーグ戦において11対7で明治大学が勝利し慶應義塾大学の史上稀にみるファイナル4落ちの引導を渡した歴史もある。そして明治大学はその年(2013年)以来の決勝進出となっている。その時は早稲田大学に敗れたが、今年は早稲田大学に勝利し自信を持って慶應義塾大学と相まみえる事になる。決勝戦は両チーム同じタイプのチームに見える。激しい試合が期待される。
Game photos
決勝戦について
試合は 11月6日(日) 駒澤オリンピック公園総合運動場第二球技場 にて 14時フェイスオフ予定 (女子の試合の後) 実施される。
チケット情報等詳細は後日の協会からの情報又は各大学のSNSを参照して欲しい。
今回はここまで。
直ぐに 関東の中高(Teen‘s)ラクロスの情報を提供したい。
やっぱりラクロスは最高!