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【マウスガード】自分に合ったマウスガードを作るのはなぜ大切?

2015年より日本スポーツ協会では「スポーツデンティスト」という資格の認定が始まり、スポーツと歯(口腔内)の関係性について、注目が集まるようになって来ました。

日本のラクロスでは2016年より、男子も義務化されたマウスガード。
みなさんは、どこでマウスガードをつくる、または購入しましたか?

義務だからと、自分に合っていない安価なマウスガードを装着すると、パフォーマンスを下げてしまう恐れがあります。今回は、ラクロスと歯、そしてマウスガードの関係性をひも解き、自分専用のマウスガードを作ることが大切な理由をお伝えします。

1.歯牙(歯)を失うこととは?




人間は永久歯牙(以下歯)を失ってしまうと、二度と生え変わってくることはありません。歯を失う原因としては1番多いのが歯周病、次に齲蝕(以下虫歯)、破折の順となっています。(H17 8020財団調べ)

歯を失うことでどの様な変化が口腔内に起こるか考えてみると、

①失った歯と隣り合う歯が失われた歯の方向へ傾斜を始める。
②失った歯と噛み合っていた歯が噛み合っていた事で均衡を保っていたが、均衡が失われたことで失った歯の方向へ移動を開始する。

このように歯を1本失うことで口腔内では様々な変化が起こることになります。さらにそれぞれの歯の傾斜により咀嚼機能の低下が引き起こされることで食物の消化が鈍くなり、食物の消化が鈍くなることでメタボリックシンドローム、肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症など身体全体への疾患へと関係していきます。

アスリートに関わらず歯を1本、1本大切にすることは全身の健康へ繋がるということが理解できますね。

2.マウスガードはなぜ必要なのか?

スポーツを行っているアスリートが競技中に歯を失ってしまうケースを考えてみましょう。一般的なスポーツ外傷の原因としては対人による接触、衝突、激突や殴打などが考えられます。

次に物体における外傷について野球を例に考えてみると、ボールやバットなどが接触、激突することで歯の歯折が起こってしまうことが考えられます。キャッチャーなどの防具を身につけている選手においても、防具の上からの衝撃によって歯を欠損してしまう症例も多く見受けられます。またスポーツ現場では対人、対物だけでなく、球場内にある構造物への激突や競技を行っているフィールド内の地面などへの激突も、場合によっては歯の喪失へと繋がる要因であると考えることができます。

私生活においては口腔衛生管理を行うことで虫歯を防ぎ、健康な口腔内維持に努め、競技中においては様々な要因から起こりえる外傷から歯を守るためにマウスガードを着用することは、アスリートにとって大変有意義であると考えられます。

3.マウスガードを装着するメリットは?

それでは次にマウスガードを装着するメリットについて考えてみます。
マウスガードの最大のメリットとしては前項で述べたようにアスリートの歯を競技中の外傷から守り、予防することが挙げられます。しかし、マウスガード着用でのメリットとしては他にも

①脳震盪の抑制・軽減、②運動能力の向上といったことも挙げることができます。

まずは脳震盪についてですが、不意に掛かる衝撃に対してマウスガードがあることによって、選手は無意識に噛み締めることで頸部が固定され、頭部が移動しにくくなり脳震盪の抑制へ繋がります。またスポーツの種目によっては、協会の定める規則により、一度脳震盪を起こしてしまった選手が復帰するまでには一定期間運動を禁止している場合が多く、マウスガードを使用することで脳震盪を抑制することは選手がプレーできる可能性を広げることへも繋がっていくと考えられます。

次に運動能力の向上についてですが、マウスガードを使用することでのエビデンスは今のところありません。しかしながら、競技中に歯の喪失への懸念が減ることで精神的不安が無くなり、競技に集中することで瞬間の反応が良くなるということは考えられそうです。

4.歯科医院で作る自分専用のものと自分で作るものの違いは?

現在一般的に使用されているマウスガードは、大きく分けて2つあります。
1つは歯科医院で自分の歯型の型取りを行って歯科医師、歯科技工士が製作する自分専用のマウスガード(カスタムマウスガード:以下CMG)、
もう1つはスポーツ用品店などで既製品を購入し、使用者本人がお湯などを用いて素材を柔らかくし噛むことで製作する(ボイルアンドバイト)ものが存在します。
どちらも使用される素材はエチレン・酢酸ビニール共重合体(以下EVA)となっているが、出来上がったマウスガードには大きな違いが見受けられます。

4ー1.CMG(カスタムマウスガード)

まずはCMGについて詳しくお伝えします。CMGを製作するためには歯科医院に行き、自分の歯型の型取りを行います。その歯型に合わせて歯科医師または歯科技工士が製作するものです。口腔における専門機関で製作されるため、出来上がったCMGの適合性(フィット感)は使用者が取り外すにも多少の力が必要なほどです。

また、選手の競技特性によって素材の厚みを変化させることや、口腔内の状況に応じて形を変化させることが可能です。選手の中には歯列矯正を行っている選手もいることが想定されますが、矯正中の口腔内であっても製作は可能です。

また、多くのアスリートが懸念する呼吸のしやすさ、コミュニケーションのしやすさや気持ち悪さなどの問題点は選手一人、一人の要望を聞き、製作を行う上でさらに実際に使用し、競技を行って感じる違和感は選手と相談し調整することが可能です。このような調整を行うことで違和感は解消されます。

4ー2.ボイルアンドバイト

次にスポーツ用品店等で既製品を購入して製作する場合について説明します。
数百円から3000円程度で購入することができます。製作方法としては製品の入る容器を用意し、水を張り電子レンジで過熱します。加熱後、鏡などで確認しながら口腔内へ入れ、上下の歯を噛み込む事で歯型を製品に付け製作します。口腔内で歯肉への押し当てることは可能ですが、一定の厚みの確保や違和感などは解消することはできません。


CMGとの最大の違いは適合性です。ただ噛み締めて製作するだけなので、競技中に外れることや適合性が悪い為に声を出すことが出来ず、コミュニケーションが取れないなど不具合が発生します。選手にとって競技に集中できないことは、パフォーマンスへ大きな負の要因となることは想像にたやすいことです。

5.自分専用のものと既製のものとの違いについて

CMG製作に当たっては使用器材によって円形や四角と形状の違いがあります。今回はDrave社製、直径120mm、3mm厚のシートを使用し製作を行いました。

シートを加熱する機材はDrave社の加圧成形器を使用。メーカー指定の加熱時間にて製作を行いました。

成形後、模型上にてマウスガードの形に辺縁(縁)をカットし、装着時に痛みを感じない様に調整。


その後、噛み合わせを調整し完成とする。その後、選手に実際に装着してもらい違和感が出る状況であれば再度調整を行います。

既製品のものについては、一般的なスポーツ用品店で購入できるものを使用。

製作方法は水を張った耐熱容器にマウスガードを入れ、電子レンジにて1分間加熱して、柔らかくします。その後、鏡を見ながら製作者が自身の口腔内へ入れて噛み合わせをつけます。

違和感がある場合にはハサミなどでカットし調整。製作後のフィット感に関しては、やはりCMGの方が模型にぴったりとついているのが確認できます。

既製品のマウスガードでは、製作者本人が口腔内へ入れて噛み合わせをつけるのですが、製作者の噛み癖によって大きくマウスガードが変形してしまっているのが確認されます。

歯を覆っている範囲においても歯を完全には覆いきれずに製作されてしまいました。

この違いにより外傷に対する安全性もフィット感にも差が出てきます。以上のことから

「CMGは口腔内においても外れること無く、装着することで安心して競技に集中することが可能である」ということが言えます。

既製品のマウスガードの場合は臼歯部(以下奥歯)で噛んでいる状態では落ちることはありませんが、一度口を開けることで動いてしまい競技に集中することは困難であると考えられます。

5.ウエイトトレーニングの際にも、マウスガードは有効?

筋力トレーニング中に使用するマウスガードについて。
トレーニング中には上下の奥歯がくいしばっている状態となる他に、呼吸が重要となってきます。そのため、選手に合わせた形状が製作できるCMGを作成し奥歯に厚みを持たせ、それ以外の箇所については呼吸がしやすいように、またコンタクトスポーツではないために極力小さな形状にすることが可能です。また、柔らかい材料の上に固い材料を重ね合わせることも可能になります。

6.ラクロスのパフォーマンスとマウスガードの関係は?

女子ラクロスにおいてマウスガード装着は完全義務化されていましたが、男子においても2012年より国際ラクロス連盟ルールで変更になり、2016年12月にJLAルールでも義務化が導入されました。

今のところ、マウスガードを着用しても「パフォーマンスの向上」というエビデンスはなく、あくまでも装着の目的は「外傷予防」なのが現状です

しかし、今後は選手個人の咬合力(噛む力)を均等にすることで運動能力を数字的に向上させることや、生活習慣によって歪んだ骨格を正す位置で噛みしめることで、運動能力を向上させるなどの研究は進んでいくのではないかと個人的には期待しています。

この記事を書いた人

学校法人 東京滋慶学園 新東京歯科技工士学校 歯科技工学部教務
https://www.ntdent.ac.jp/
歯科技工士 スポーツ歯科医学会所属
JASD認定マウスガードテクニカルインストラクター
君塚友見

歯科技工士学校卒業後 A.I.T.I. 国際研修科にて留学。
歯科技工所勤務を経て母校である新東京歯科技工士学校の教員となる。
日本スポーツ歯科医学会所属、JASD認定マウスガードテクニカルインストラクターを取得。「スポーツ技工コース」を担当。


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