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【インタビュー】現役米大学女子ラクロスチームの現役アスレチックトレーナーYoshi Saitoさん

みなさん、アメリカの国家資格・アスレチックトレーナーをご存知でしょうか?
トレーナーと聞くときき慣れた言葉だとは思うのですが、このアスレチックトレーナーは日本のラクロスチームにいるトレーナーの資格とは違い、より幅広く専門性を高く持ったアメリカの準医療従事者資格となり、スポーツ医学のプロフェッショナルです。

スポーツの本場アメリカでアスレチックトレーナーとして仕事をすることはかなり狭き門で、その仕事を獲得する倍率は何百倍と言われているほどです。そんな激しい競争を勝ち抜き、現在アメリカの大学のケンタッキー州にあるルイビル大学の女子ラクロス部でアスレチックトレーナーとして活躍をしているYoshi Saitoさんに今回はお話を聞きました。

<Yoshiさん@Yoshi_ATCの経歴>
日本生まれ日本育ち。日本では野球をプレーし、18歳の時にアメリカの大学に通うために渡米。アメリカでは英語力0からのスタートで、まずは現地で語学力を身に付けるところからスタート。その後ミシガン州立大学に入学し、アスレチックトレーナーとしての勉強を始め、現在ではルイビル大学女子ラクロス部にてアスレチックトレーナとして従事。

English ver. below…

– Yoshiさんの今までの経歴を教えてください。

日本で生まれ、高校まで普通に都内の高校に通い部活は野球をやっている学生でした。大学進学のことを考えたときに、既にアメリカにいた姉や親の勧めでアメリカにいくことを決意しました。
アメリカに渡ってからは、東ミシガン大学のESLで英語とあとは大学で一般教養を2年学んだ後、その後ランシングコミュニティーカレッジに1年半、その後ミシガン州立大学に編入し、アスレチックトレーナーの勉強をしました。2016年に卒業をし、大学卒業後はオハイオ州のトレド大学の大学院で2年間エクササイズサイエンスを学びながら同大学の野球部のアスレチックトレーナーとして従事しました。その後ルイビル大学の野球の野球部のアスレチックトレーナーのインターンを行い、その後翌年である昨年の9月より女子ラクロス部のアシスタントアスレチックトレーナーとして活動をしています。

―なぜアスレチックトレーナーを志すことになったのですか?

アメリカにいくことが決まり、その後現地のESLにいる間に将来のことを考えた際に、元々スポーツをしていたことや、高校時代に野球で怪我をし、選手としてプレーできない間友人のサポートをした経験を思い出し、アスリートのサポートをする仕事が自分に向いていると思い、アスレチックトレーナーを目指すことを決めました。

※ESL(English as a Second Language)とは
英語を母語としない留学生が英語力を補強するために履修する科目のこと。

– Yoshiさんが持っているアスレチックトレーナーについてご紹介ください。

世界でも最高レベルのトレーナ-資格と言われているのがこのNATA認定のトレーナー資格です。アメリカでのアスレチックトレーナーはまず全米公認の国家資格。日本でのアスレチックトレーナーは民間の資格なのに対し、アメリカでは国家資格となっているので、資格保持者以外はアスレチックトレーナーを名乗ることはできません。

アスレティックトレーナー(AT)は、教育訓練、州法、規則および規制に従って医師の指示または協力を得ながら治療またはサービスを提供する医療従事者です。医療チームの一員として、ATによるサービスには、外傷障害や疾患の予防、健康促進と教育、緊急対応、検査と臨床診断、治療介入、傷害および疾患のリハビリテーションが含まれます。
ーJATO公式サイトより引用

(※以下アスレチックトレーナーはATを表記します)

細かく言うと、
・選手が練習で怪我をしたらATは応急処置をし、その後怪我の診断をする(→日本では怪我の診断は医者のみが可能です、日本でトレーナーは怪我の診断はできません)
・救命救急
・選手・コーチ・保護者とのコーディネーター
・リハビリ → 日本では理学療法士の人が行っているような、どんなメニューでリハビリを行って、回復を判断することもできる(→日本では病院のリハビリ施設に行ってリハビリを行い、医者が回復の判断をする)
・アスリートへのけが予防や安全に気を配れるよう教育をする
・アスレチックトレーニング関連の予算や備品の管理
・練習前にテーピング → けがの予防に関することも仕事
などアスリートなど体を動かす人や団体にてサポートをすることを役割としています。

– ATの方の活躍場所はスポーツ分野だけで活躍をしているのですか?

よくスポーツの分野の仕事だと思われているのですが、アメリカだと身体を動かす仕事にはATの人がいることがあります。
大学スポーツだけではなく、プロスポーツチームには必ずいるのはもちろん、テーマパークでのダンスショー専属のATなどもそうですし、意外なところでいくと、倉庫での荷物ピックアップの人向けに活躍するATもいるんですよ。
国家資格ということもあり、活躍できる幅は広いのが特徴です。
ただ国家資格ではあるのですが、アメリカでは州ごとに法律が違う関係もあり、そこでATとしてできることが違ってくるのです。
〇〇州では鍼灸ができるが、〇〇州ではできない、などがあるので、国家資格の他にも就労する州での資格も必要になってくるんです。
州ごとに法律が違うってアメリカっぽいですよね。

– 勤務しているルイビル大学はどんな大学について教えてください!

ルイビル大学は、ケンタッキー州というアメリカの中でも北東の内陸にある地域です。ケンタッキー州はケンタッキーフライドチキン発祥の場所で、実はカーネルサンダースのお墓がある場所にあります(笑)
学生数は23,000人程度と大きな大学で、100か国を超える国から留学生も学んでいる大学です。
スポーツではバスケットボール、アメリカンフットボール、野球、サッカー、陸上といった分野で全米トップレベルの実績を収めており、日本からの留学生だと、女子バスケットの今野紀花選手が現在ルイビル大学で活躍をしています。彼女ともよく話はしますよ。
https://number.bunshun.jp/articles/-/842834

– 現在はルイビル大学の中でのATの方々はどのような組織体系で働かれているのですか?

ATというポジションの方々は学校から雇われているような形になり、学校側でどのスポーツに誰を派遣するかを決めます。もちろんチームとしての意見も聞き入れてはくれますが、基本は学校が手配をします。
学校の一つの部署の中にATを管轄するスポーツ医学 (Sports medicine)部署があり、その中で色々役職があり、私はその中の “アシスタントアスレチックトレーナー” という役職でこの仕事をしています。 “アシスタントアスレチックトレーナー” というとヘッドトレーナーが部の中に別にいるイメージかと思いますが、実は学校の部署の中での役職の名前がアシスタントアスレチックトレーナーとなっているだけで、実はATとしてチームについているのは私一人だけなんです。

- ラクロスチームのアスレチックトレーナーとして活動することになり、ラクロスについての印象を教えてください。

幼い頃から野球を自身でプレーをしていたことから、アメリカのチームでのインターンでも野球に携わっていたのですが、正規社員となる際にルイビル大学の女子ラクロス部のポジションに空きがあり、そのポジションに応募をし、運よくこのポジションにつくことができました。野球は上半身の怪我が多かったのですが、ラクロスは下半身の怪我が多く、今までとはまた違ったことを現場で学べ、日々とても面白いです。
例えば、女子ラクロスは急停止や、急に体の角度を変えたりすることが多いスポーツなので、選手は下半身に多く負担がかかるスポーツだと思っています。そのことからアメリカの女子ラクロス選手では捻挫や膝関節の怪我が多い印象にあります。膝をけがしている人は常にいますし、タフなスポーツだと思います。

- ATとしてYoshiさんは日々の生活はどのようなスケジュールで活動をされていますか?

基本はチームと全く同じ動きをします。
練習は、早朝の練習から時には夜もフィールドで練習する時も、トレーニングルームでのウエイトトレーニング時にも一緒にその場所にいます。ミーティングの時にも、常にチームに帯同します。いつ選手の体調が悪くなったりするかもわかりませんからね。

試合でいくと、今季のルイビル大学では、オハイオやテネシー、ノールカロライナなど飛行機での試合遠征もありましたが、もちろんそれらも帯同しました。アメリカの大学は試合をするごとに飛行機やバスでの長距離移動が多いのです。

※今季のルイビル大学の試合スケジュール一覧:https://gocards.com/sports/womens-lacrosse/schedule/2020

– アメリカや日本でもですが、ラクロスでのけがや脳震盪などのケアをしっかりしようという動きがありますが、アメリカのラクロスチームは試合中や練習中などどのように処置等を行っていますか?

先ほど述べたようにATは常にチームに帯同しています。チームメンバーの身体に関する責任者として常にチームの状態には気を配っています。その中で試合や練習中などはいつでも怪我等に対応できるような準備をしています。
練習等で選手同士が軽くぶつかっただけかもしれませんが、脳震盪である可能性も十分にあるので、脳震盪などは特に慎重に判断をしています。
もし脳震盪の疑いがある場合は絶対に練習には戻しません。コーチがなんと言おうとその判断はATである私に決定権があります。
怪我についても同じで、怪我をしてしまった選手が練習や試合に戻っていいかの判断をするのもATの仕事です。
選手にはアスリートとしての今だけの生活だけではなく、将来もあるので後遺症に悩む人生を送って欲しくはないですね。

– 選手へのリハビリを担当するのもATの仕事とのことですが、どのようにしてリハビリのサポートをしているのですか?

選手によってけがの重症度や部位によって違うので、基本は選手ごとにリハビリメニューをATが作っていく形となります。ただここで大事なのはプレーヤーとしてのそれぞれの競技スキルを落としてはいけないので、競技スキル面に関してはコーチと相談をしながらリハビリメニューを決めていっています。
例えばコーチがリハビリ中だけれどもこの選手にはこの動きを習得してほしいという要望があれば、ATがその動きの要素をその怪我をしている選手の状態を鑑みできるところまでのメニューを組みます。私も選手のリハビリの相手をするので、実はラクロスのプレーをすることもあります。まだラクロスは初心者レベルですが、これからもっとラクロスのスティックになれて、うまくなりたいなと思っています(笑)。

– 最後に日本のラクロス界の方へ向けてメッセージをお願いします

ラクロスって面白いスポーツですよね。私はアメリカでラクロスに初めて関わり、ラクロスの魅力を知った一人です。今後ぜひ日本でもラクロスの人と関われたらうれしいなと思っています。またぜひルイビル大学女子ラクロス部の応援もよろしくお願いします。今は新型コロナウイルスの影響でラクロス活動はできていませんが、いつかみなさんにお会いできることを楽しみにしています。

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