【こぶ平レポート】男子・準決勝 |2022年ラクロス全日本大学選手権
第13回全日本大学選手権は新しい勝ち上がり形式で実施される大会となり、前回優勝地区の関東地区2位チームがワイルドカードで出場し全7地区から代表が集まる形で始まった。そして11月6日に東北会場で始まった大学選手権が11月12日に3地区で1回戦が開催されベスト4が決定し、11月19日20日両日渡り準決勝が実施された。既にライブ・ストーリミングで観戦された方も多かったと思うが、こぶ平の見た準決勝についてお伝えしておこうと思う。女子編に続いて男子編をお伝えする。(なお、京都大学vs明治大学戦は現地に行けずLiveStreamingを見たレポートです。)
第13回全日本大学選手権 男子準決勝
やはり守備力のせめぎ合いとなった男子の試合
<プロローグ>
先の1回戦の詳報で、全国的な守備力の進化が各地区の競争力を高めてきている事を書いてきた。準決勝の展開は2試合ともロースコアで守備的試合を物語るように見えるかもしれない。しかしその内容は含蓄に富む結果となった。
二連覇に挑む、慶應義塾に対してどこが待ったをかけるのか、準決勝からその強度が1段高くなる選手権大会。2019年までは「巧より剛たれ」の早稲田大学のラクロスにあるような破壊力のある攻撃チームがリードをしてきた感があるが、全国指導力が浸透し早期育成のKnowHowが展開されると、速成に適した(と考える)守備力ベースの戦い方で互角の勝負を賭ける事が男子学生ラクロスの主流になって来た。つい最近の世界大会で示した日本代表チームがSSDM(守備的ミッドフィールダーの略)の有効性を示した、新たな守備モデルもこの流れの後押しをしたと考えられる。それを体現する京都大学、名古屋大学、明治大学とそれを取り入れつつ高い攻撃力を持つシステマチックな慶應義塾大学という構図が今年の全国大会男子の世界だった。詳しく触れていく。(以下学校名は略称表記)
京都大学 vs 明治大学 1対5で明治大学勝利
究極の守備力対決となったこの戦い試合を決したのは明治大学のゴーリー1番伊藤選手だった。
先ずはスタッツを見ていただこう。フェイスオフでは圧倒された明治大学が勝ったのは、3Qまでにターンオーバー(パスミスやゴーリーのキャッチは含まれない)による京都大学の攻撃封じ込めに成功した事が挙げられるが、守備陣の頑張りを超えて再三の危ないショットをセーブした1番ゴーリー伊藤選手の活躍は神懸かっていたという表現しか思いつかなかった。
<1Q>
最初のドローを制した京大に対して、明治のSSDM5番古賀選手が京大13番豊田選手との1on1を抑え京大に対し固い守備を見せると京大の無理なパスからターンオーバー。ポゼッションから京大のDFとの間合いを測りLDFの強さを確認する。一方の京大もゴーリー4番堀江選手のセーブ(彼も又U-21代表に選ばれた功ゴーリー/関西決勝のMVP)からLDF52番立松選手(U-21代表)の上りからの速攻を仕掛ける。これは惜しくもフィニッシュが乱れゴール前でのショットは叶わなかった。そこからのターンオーバー、ポゼッションから京大DFをワイドで高速の展開からほころびさせた明治。9番田部井選手がフリーで振り抜き先制点を挙げた。これがポイントだった。ゴール前での京大守備陣との距離感を保ちながらワイドな展開で揺さぶりを掛ける明治。ゴーリーの踏ん張りから攻撃権を得るが明治のライドを交わせず、京大は結局1Qにおいては1本のショットを放ったのみに留まった。
<2Q以降>
2Q以降も、明治のライドが冴えるが京都も同様のライドを仕掛けるチーム。そのブレイクスルーが分かっていたのか徐々にポゼッションを確保する機会も増えショットの機会が増えていく。決定機を迎える回数も増えたが、そこに立ちはだかったのが明治ゴーリー1番伊藤選手。大学選手権1回戦を大幅に上回る17個のセーブを記録。京大のゴールを4Qの1本に抑え実にセーブ率90%越え(17/18)を記録した。京大はこの厚い壁を破ることはできず最後に一矢を報いたのが精一杯だった。かくしてこの試合を完全にコントロールした明治の勝利となり初制覇に向けて改めて守備陣の強力さを取り戻し、攻撃面でも強みを確認できたことは初優勝に向けて視界が開けたのではないだろうか。
一方の京大は、明治同様ゴーリー4番堀江選手の高いパフォーマンスを要(かなめ)に52番立松選手が見せた思い切った攻撃や、同じくLDFの99番馬場選手の高い守備力は十分に明治の攻撃を抑えこんだと見えた。しかし、SSDMの部分で明治と比べて弱さを持っていた。そしてそこを速い展開で突かれた時にわずかにほころびができたと見ている。勿論それは60分間で数回の事だ。ラクロスにおいてそれは許容範囲でありやはり攻撃力の磨きを必要とするというのが来期に向けた期待となる。
名古屋大学 vs 慶應義塾大学 3対6で慶應義塾勝利
高い次元で攻守のバランスが取れた好チームの慶應義塾に対して、昨年の大会で前半を耐え後半に賭けて挑んだ準決勝で、今回もアタックに名を連ねる中名生選手、小川司選手、入谷選手そして何より1年生で全国大会デビューとなった藤岡選手に2Qで4点を重ねられ後半の優位を結果に結びつけられなかった。今年も1回戦で耐えて勝利をつかんで臨んだ再戦。やはり昨年同様前半耐えて後半に賭ける作戦は変わらないという事だった。ただし全て同じではなく昨年足りなかったショットへの拘りを持ち30本以上のショットを打ち込む事をも目標に据えていた。これはショット決定率20%でも6点以上を取れる事を意味し昨年の慶應義塾と対等に戦えるという事になる。一方の慶應義塾大学はシーズン当初メンバーの入れ替わった守備陣の完成度に不安を持つ意見もあったが、試合を重ねる間にその強度を高め6人全体の連携守備で高度なシステムを作り上げてきた。結果的にゴール前ディフェンスに関しても耐用性の極めて高いものになっている。そんな状況の中始まった試合。
<1Q>
33番石井選手が復帰した慶應義塾フェイスオッファー(FO)に対して最初のFOを12番中村選手の粘りからグランドボール(グラボ)を81番LMF飯塚選手がボールを蹴りだしスクープすると最初の攻撃。慶應義塾22番小川健選手得意のパスカットで攻撃機会を摘み取ると慶應義塾のターンとなる。昨年から多く変わらない慶應義塾の攻撃陣に対して、名古屋が立てたとても大胆な守備が発動する。それは「シューターが分かっているならそのシュートコースに守備陣が体を張る」という物だった。女子では守備側のファールとなるが男子では守備がいるのにショットを打ったことによる攻撃側の反則となる事を狙った作戦だが、速いショットを放つ男子のラクロスにおいてそれがいかに大胆な作戦かお分かりだろうか。実際慶應義塾1番中名生選手がショットを打つ寸前にコースに立ちふさがったのは名大5番児玉選手。目論見通り反則を誘い名大ボールとすると、守備の勇気に応えた名大オフェンスマンアップ解除後もポゼッションを高め右45度から1番和久選手のミドルが慶應義塾DFのチェックを振り切るように決まる。この2分間の攻守は名大の決意を表すシンボリックなものだった。この後FOを取った慶應義塾何とか流れを取り戻すべくポゼッションを取るが、昨年経験済みの名大は裏に張る慶應義塾1番中名生選手にマンマークとして名大随一の運動量を誇る6番大越を付けて自由度をなくすと前5人のゾーンも崩さず慶應義塾に流れを渡さなかった。チェイスも取って攻める名大。しかし慶應義塾のディフェンスシステムも崩れず1Qは名大の積極守備が耐える守備の進化系として注目された。1Qポゼッションは名大が60%以上占めショット数も6対1とその積極性が目についた。
<2Q以降>
名大のFOシステムは相手のFOの手元の強さを想定した形でFOのグラボを処理すると名大のペースが続くかと思われたが、名大3番の裏まくりからの積極的に狙ったショットは慶應DF8番神津選手のヘルメットに当たり反則。逆にマンアップとなった慶應は数的優位をうまく使い立て続けに名大ゴールを襲うも名大ゴーリー0番清水選手のスーパーセーブに阻まれる。しかしマンアップ解除後パススピードを上げ展開を速めた慶應がフリーを作り37番入谷選手の強烈なショットを導き出した。以降慶應33番石井選手が確実にFOを獲得しゲームを支配する。名大もゴーリーの再三のセーブで耐える。しかし慶應アタック陣の高い技術が決め手となり慶應のペースで試合が進んだ。
さらに3Qに名大の積極性が裏目に出る。
名大3番三谷選手が365日振り込んだショットを決め1点差に追い上げ4Qへとつなげるベースを作った。ここで耐えて4Qに繋ぎたかった名大は0番ゴーリー清水選手のセーブが続き、失点を慶應37番入谷選手の個人技による1点のみに抑えていたが、終了間際耐えていたDFが相手のターンオーバーに積極的にライドを仕掛けに行く。それを交わされカウンターを許すと慶應11番貝柄選手(U-21代表)に強引に決められてしまったのが3Q残り20秒。試合後名大HCに確認した所「あそこはライドではなくゴール前を固めて耐える」プランだったという事だった。
この1点が4Qの名大に重くのしかかる。慶應は3点差を得て攻守に時間を掛ける。名大は前懸かりで攻め続けるが焦りからか枠外ショットが多く(枠内5/12)打たされた形になった。結果的に名大3番三谷選手の素晴らしいミドルショットの1点に抑えた慶應義塾が3対6と勝ち切った。くしくも昨年と同じスコアだった。
こぶ平‘s View
選手権2試合のスタッツから見えた事
- 明治大学はゴーリーだけではなくディフェンスも強さを増し良い形
で決勝戦に向かう。 - 明治大学の課題は得点力である。
- 京都大学も守備に関しては全国のトップレベルでありフェイスオフ
に関しても強かった。 - 京都大学も攻撃面でのシューター作りについて更に高い所を目指す
必要がある。
- 慶應義塾の得点力はどんな状況でも、個人技も合わせて取り切る高さがある。
- 慶應義塾の守備のフレキシビィリティさが高い次元の守備力を実現している
- 名古屋大学の積極的な守備とそこからの攻撃は、昨年よりも慶應義塾を追い込んだと言える。
- 特に名古屋大学ゴーリー0番清水選手の15セーブは特筆すべきものであり慶應義塾の決定率を押し下げたプレーだった。
- 名古屋大学3番三谷選手のショットは小柄でありながら強いものがあった。本当に365日振り込んだものが結実したと言える。全国の多くの小柄な選手に対するロールモデルと言って良いと思う。
- ☆ 慶應義塾大学1番中名生選手をゴール裏で封じ込め、しかも高速で前線まで攻めあがる驚異の運動量を見せた名古屋大学6番大越選手は埼玉県の昌平高校サッカー部に所属して全国大会に出場した経験を持つ選手だ。主将としてひたすら献身しチームを鼓舞したプレーに拍手を送りたい。
★全日本大学選手権 決勝
決勝は11月27日(日)に開催される。場所は 東京 駒沢オリンピック公園陸上競技場
スタッツの変遷は以下だ
関東決勝との比較を加えたが
慶應義塾の攻守のバランスを取れたシステム化ラクロスに対して、調子を上げてきた明治の守備陣がどう立ち向かうかが焦点となりそうだ。
【見所】
ポイントは明治大学ゴーリー1番伊藤選手だが、決勝時よりも体調は良さそうであり研ぎ澄まされた感覚はちょうど決勝戦にピークを迎えそうな気がする。勿論明治大学の守備が上手くゴーリーの守備範囲でショットを打たせている部分も大きいがやはり伊藤選手のパフォーマンスが試合の行方を左右することは間違いない。そしてその守備力で慶應義塾を5点以内に抑え込めるかが勝敗の分かれ目であり、更に明治が6点を取れるかがもう一つのそして最大の課題となる。
慶應義塾としては関東決勝時よりもFO獲得率を上げていくことが試合のペースを握る上で重要な事だと考える。その意味では33番石井選手と99番松澤選手のパフォーマンスも鍵となりそうだ。
決勝はリベンジに燃える明治大学と2連覇を目指す慶應義塾大学の熱い戦いになる。是非東京近郊の皆さんは現地で生の白熱した戦いを見て欲しい。サッカーのように歴史が動く瞬間に立ち会えるかもしれない。
次回は中高ラクロス情報をお送りするよていです。
やっぱりラクロスは最高!
こぶ平