2022年ラクロス全日本クラブ選手権決勝女子

【こぶ平レポート】2022年ラクロス全日本クラブ選手権決勝 〜女子編〜

第23回全日本クラブ選手権は女子が新しい勝ち上がり方式で戦かわれ、決勝は東日本地区代表が戦う事となった。そしてそのカードは昨年と同じ男子 FALCONS(東日本1位) vs Stealers(東日本2位)、女子はNeO(東日本1位) vs MISTRAL(東日本2位)の勝ち上がりとなった。男子はStealersの連覇かFALCONSが復活の狼煙を上げるのか? 女子はNeOの6連覇がかかり、男子で続いたFALCONS絶対王者同様のNeO絶対女王となるのか?はたまた、MISTRALの2013年以来9年ぶりの優勝を遂げるのか。注目のゲームが始まった。既にライブ・ストーリミングで観戦された方も多いはずだが、こぶ平の見た決勝についてお伝えしておこうと思う。男子編に続き女子編。

第23回ラクロス全日本クラブ選手権 女子決勝

総合力の強さで勝ち取った試合を支えたのはゴーリーズの献身だった

プロローグ

リーグ戦のプレーオフでドローのビハインドもあり攻撃機会を奪えず最後の4Qで力尽きた感のあるMISTRAL。実はMISTRALの本質的な課題は守備にあるのではなくNeO(FUSIONにも)に対して点を取れない攻撃にあると考えている。今期のリーグ戦においても非常に白熱した良いゲームをしたが結果的には5対6であった。そしてプレーオフでも4点しか取れなかった。さらに言えば、NeOが東日本クラブリーグ1部に参加してから8年目。過去の7年間でNeOに勝ったのは2018年のリーグ戦のみ。その時のスコアは3対2。それは雨中の激戦が幸いしたと言われることもあった。そして過去8年間MISTRALがNeOとの戦いで最も点を取れたのは、昨年の全日本クラブ選手権決勝での7点(スコアは7対8)である。(2018年全日本選手権決勝は7対4でNeOの勝利)

 

メンバーにも入れ替わりがありお互いの戦力に変わりがある中、リーグ戦の戦いから言えることは「ポイントは間違いなく、MISTRALが6点以上を取れるか?」だった。 MISTRALが全国優勝を果たした2013年まではMISTRALは紛れもなく最強の攻撃チームだった。それが登録選手の変遷により得点力も変わり、ラクロスのスタイルも確実に変わらざるを得なかった。女子ラクロスのスタイルの変化の中で守備が強くなったという事象もあった。そしてNeOがトータルラクロスで女王となった時にNeOに勝つための戦術、選手集めの模索が始まった。MISTRALが現在の指揮系統になったのが3年前。2年目に最接近したのが昨年の全日本クラブ選手権決勝。8対7だった。最接近した2021年決勝からMISTRALは何を進化させるのか注視をしていたが、今期のリーグ戦を通しての印象はプラスαが少なかったという物だった。ボール回しのスパイスとなる2番(当時)小堀選手の引退に伴い、その代わりを担う存在に安定感が足りなかったり、シーズン全般でミスの多いMISTRALという印象だった。そんな中存在感を示す選手も出現した。90番木村選手(成蹊/新人)や、SIXES代表になり進化したDF95番岩田選手(早稲田)の存在だ。昨年の試合経験者から、最も得点を挙げた鈴木選手とスパイスの小堀選手が不在で4点の得点源がいなくなったのを、新戦力の融合の促進、攻撃のスピードの高速化でカバーできるのかを、「点を取る」という見地から注目した。

対してNeOは2点を取った関口選手と小川選手が引退、水野選手がクラブ選手権を前にして不在。高野選手は休養明け。という事で昨年の決勝の試合結果も参考にはならないのはMISTRALと同じだと考えた。しかしシーズンを経るにつれ、新戦力2番鈴木選手(日本女子体育)、3番山根選手(日本体育)、10番藤井選手(日本体育)、34番戸村選手(日本体育)の融合が進み、16番辻選手(MF/東京)の進化、12番高野選手(MF?/横浜国立)のカムバック等で、前のクラブ選手権準決勝を見た印象では昨年のチームに対して新しいスピーディーなチームへの進化を果たしたように見えた。

層の厚い両チーム。新人もフィットしてきている。本来オールコートのプレスでブレイクを狙い合うスタイルの両チームの戦いが、今期リーグ戦で相まみえた時と同様高速の展開の応酬になれば再び昨年のようなしびれる戦いになることが予想された。しかし新人も加わり未知数の多い試合となると思われた。

先のクラブ選手権準決勝戦レポートにて「MISTRALはドローの善戦と、ゴーリーズの今まで通りのパフォーマンスが勝利への支えとなり、ターンオーバーに応える攻撃陣の速攻が勝利への鍵を握りそうだ。NeOとしてはリーグ戦で不在だった12番高野ひかり選手(2022年W杯日本代表)も戻りリーグ戦当時よりも強度が上がっている分有利に試合が運べそうだ。着実に進化をし、各試合で必ず得点に絡むようになった16番辻リカ子選手(東京大学出身)のパフォーマンスにも期待が持たれる。」と書いた。さらに付け加えるとすれば、24番小林選手の絶対的ドローの強さは大きな武器であり、その制圧とNeO/MFの要である27番水野選手を欠いたNeOのゲームメイクを13番今井選手(信州)、14番岡田選手(国士舘)、16番辻選手、89番井上選手(青山学院/日本代表)がどこまでカバーできるかがポイントとなりそうだった。

そして今年も4Qにドラマが待っていた。

(以下Dr;ドロー、G;ゴーリー、MF;ミッドフィルダー、AT;アタックは略称表記、選手名敬称略)

スタッツにおけるターンオーバー数はゴーリーセーブ、パスミスによるアウト・オブ・バーンズは含まない。グラウンド上でのボールを奪う行為に起因するプレイおよびチェイスによる攻撃権奪取の数のみをカウントしている。ミスは又別途集計した。

NeO(東日本クラブ1位) vs MISTRAL(東日本クラブ2位) 7対8 

スターター

  • NeO G40番齋藤(北海道) DF28番廣瀬(上智/日本代表)34番戸村(日本体育/新人/日本代表)、47番菅谷(成蹊/日本代表)、DR&MF24番小林(日本体育/日本代表), MF10番藤井(日本体育/新人/日本代表)、89番井上(青山学院/日本代表)、AT2番鈴木(日本女子体育)、3番山根(日本体育)、6番多賀(明治/日本代表)
  • MISTRAL G21番高橋(慶應義塾)、DF8番鴨谷(武庫川女子)、10番吉村(学習院)、95番岩田(早稲田/SIXES代表)、DR&MF16番井上(立教/SIXES代表)、MF43番田中(立教/SIXES代表)、90番木村(成蹊/新人)、AT23番井畑(学習院)、81番亀井(立教/日本代表)、83番櫻井(立教/日本代表)

両チームで日本代表が作れるハイスペックな戦い。フライ(交代)要員にも日本代表がいる。体力的にも大きくは崩れない構成だった。

<1Q> NeO 対 MISTRAL  2対2

最初のドロー、確実に自取りに成功したNeO24番小林選手。NeOポゼッションから最初のターンパスで振って10番藤井選手が狙ってFSを得るもののMISTRAL16番井上選手がサイドへ追い出しショットは枠外。MISTRALゴーリー21番高橋選手への探りを入れるショットだったかもしれない。NeOは次のターンでパスミス。グラボを奪ったMISTRAL90番木村選手のランでクリアするがNeOのMF10番藤井選手のライドに合い奪われたが、MISTRAL得意のハイプレスから81番亀井選手83番櫻井選手がダブルで仕掛け83番がゴーリーからボールを奪う。ショットには行けなかったが攻めのDFが示せた場面だった。その後はNeOがFSを外す。MISTRALはライドからボールを奪ってセットオフェンスへ繋ぐといった両チームの想定内の展開が続いた。試合が動いたのは7分過ぎ。MISTRALポゼッションからショット枠外。チェイスリスタートの71番倉田選手(早稲田/新人)、NeO DF47番菅谷選手(日本代表)との体格違いのマッチアップを速いターンですり抜けると、ゴール裏MISTRAL77番原選手(早稲田)のケアに向いたゴーリー40番齋藤選手がゴールを空けたところすかさずショット。15mショットを決めて先制した。この場面恐らくNeOのゴーリーとしては47番菅谷選手の1on1DFに信頼を置いてMISTRALのパスからの2次攻撃に備える動きに重点を置いた結果、ゴール裏の77番へのケアに注意が向いた瞬間ターンでDFを抜いた倉田選手の素早い判断が決め手となった。このプレーはこの日のMISTRALの攻撃の動きを象徴するもの(1on1で勝負に行ける)だった。次のドローはNeO。しかし24番小林選手のショットは枠外。ここでMISTRAL DF10番吉村選手のビッグプレーが出る。相手ショットを読んでのチェイスを取ったのだ。ここまでNeOのショットは3本とも枠外。MISTRALゴーリーの上手さが枠外ショットを誘発する中でそれを想定したビッグプレーだった。これを攻撃に結び付けたいMISTRAL素早くクリアを狙うと90番木村選手のクリアランから前方へパス83番櫻井選手がキャッチ&ラン ダイブショットを決める。2つ目のポイント、速攻が決まった瞬間だった。 次のターンMISTRALドロワーが6番鷲山選手(明治学院)に変わるがNeO24番小林選手の強さは揺るがず、流れをもって来られない。しかしNeOもゴール周りでのボール回しに意図が感じられない。単純な1on1の仕掛けかインサイドへの無理なフィードの繰り返しでMISTRALのライドに刈り取られる、苦しい展開が続いた。しかし残り2分MISTRALはこのまま2点差をキープして終わらなければならないところDFの簡単なミスパスでNeOにボールを与えるミスが連続し、それをNeO 12番高野選手(横浜国立/日本代表MF—>AT)、24番小林選手に決められ、あっという間に同点にされてしまう。今年のMISTRALに見られた懸念材料がここで出た。流れを相手に与えかねない痛恨のミスだった。確かに要所でのNeOの上でのプレスが効いたと言えるが、想定内のところをキープできず追いつかれた終了を余儀なくされた事はMISTRALにとっては誤算だった。 MISTRALにとってはターンオーバーブレイクが効果的だったので、勢いが付きすぎた所もあったのだろう。しかし、そこではいつもの「ゴーリーがしっかりキープして落ち着かせる戦術」を取る手が最善であったかもしれない。 2対2 で終了。

<2Q> NeO 対 MISTRAL 4 対 1 トータル 6 対 3

1Q速い攻撃が功を奏して自分たちの形で進められたMISTRALが痛いミスで同点とされ、不穏な空気が漂う中開始された2Q。逆に1Q後半からオールコートの攻撃オフェンスで流れを取り返そうとして、相手のミスを誘発同点にしたNeOにとってはドローも100%取れて、2Qでの反攻準備が整ったように見えた。そしてNeOいきなりマンアップから10番藤井選手の速いリスタートからのドライブが、準備の間に合わないDFを抜けてゴーリーの堅守を破り逆転ゴールを決める。そしてドローを取り続けるNeOその24番小林選手からクリースサイドに裏から飛び込んだ12番高野選手へ縦にフィード、ピンポイント通ってフリーでショットを決めたのが1分後。アッという間に点差を広げたNeO。1Q終盤に戻した流れを、マンアップを利して一気に自分達へ引き込んだ貫録のプレイだった。ここまでMFとしてドローのみならずゲームメイクも担当した24番小林選手の圧巻のアシスト。世界選手権を経て大きく進化した証を見せた。

このまま引き下がれないMISTRALもライドで粘ってボールを奪う事で優位を保ちリスタートから速い攻撃。81番亀井選手が一気にドライブ。ランシュートを決め切って4対3と追いすがる。今日のMISTRALには早いタイミングで1on1を仕掛ける強烈な意思が感じられた瞬間だった。しかしそれが裏目に出る。速攻でのブレイクを狙ったゴーリーからのロングパスを攻撃に繋げず逆にセットディフェンスが整う前に仕掛けられた。しかしその後も積極的に前に仕掛けるMISTRALの攻撃をNeOゴーリー66番内田選手(日大/新人)中心に凌ぐ。そしてドローをキープするNeOは2番鈴木のFS,17番西村選手(慶應義塾)の得意の高速ドライブで追加点を上げて終了する。 2Q 4対1 トータル 6対3
MISTRALはリスキーなブレイキングアタックを選んで失点する場面はあったが、終始攻めの姿勢を貫き通した事はNeOに対して強いメッセージとして伝わったようなクォータだった。NeOは流れを逃さず逆転、追加点を奪った所は流石と思わせるものがあった。ただし得点内容を見ると意図的なメイクからブレイクできたのは24番–12番のラインで決め切った物だけであり単調な攻撃が多かった点は要注意だった。個別に見ると、NeOの5番森岡選手(明治)6番多賀選手といったインサイドプレイヤーが消されてしまっていた。そこはMISTRAL守備陣の良さであり後半に繋がるものと見えた。

 

<3Q> NeO 対 MISTRAL 1 対 3 トータル 7 対 6

得点的に見ると2Qで完全に流れがNeOに傾いたと見えるこの戦いだが、Live実況で2Qの終わりに以下のように呟いていた。

つまり、MISTRALは本来持つブレイクラクロス(ラクロスではライド/守備からのターンオーバー速攻をこう呼ぶケースが多い)の良さに徹して、今までの対戦とは違う戦い方を進めて効果的だったという事だ。ただ、速攻を焦るあまりパスが乱れて効果が不十分に終わったと考えられる。そしてNeOは意図して取れた点が多くないという点で、どちらも3Qの出来次第で流れを呼び込めると見ていた。

そして始まった3Q。ドローに関してはアンタッチャブルとなったNeO24番小林選手、ここでも無双ぶりを見せて展開すると自らのFSを展開2番からインサイド12番へ通して12番高野選手ハットトリックとなる得点を決めた。セットから決めた2点目はここからのNeOの流れを加速するかに思われた。直後のドローをMISTRAL16番井上選手が今日初めて優位にコントロールし、確保したMISTRAL81番亀井選手から展開インサイドを伺う83番櫻井選手に合わせてブレイクを図るとファールを取り、83番櫻井選手がFSを上手く左下隅に決め切った。MISTRAL相手ドロワーが14番に変わった機に連続して確保すると81番のFSに持ち込むがセーブされ1度はチャンスをふいにするも、直後オールコートのハイプレスから83番櫻井選手のライドを90番木村選手がスクープ、前方に出た83番へフィード。83番櫻井選手ゴーリーとのワン・オン・ワン(1on1)をダブルフェイクで交わしてゴール。櫻井選手のハットトリックは一気に流れをMISTRALに持ってきた。ここにプレスからのダウンボールに対するMISTRALの寄りの速さがNeOを凌駕し始める。勢いも焦りではなく集中力に変わったそんなゴールだった。さらにNeOのパスミスが重なりMISTRALの攻勢が続く。ポゼッションから間を置かず90番木村選手がロールオーバーNeOのDFのバックに回り左45度7mからフリーでショット。ゴーリー右上隅を打ち抜いた。ついに1点差とする。さらに攻勢を強めるMISTRAL。しかしNeO も懸命に守る展開。MISTRALドローも取り得点パターンのインサイド23番井畑選手のターンショット等で攻め立てるも、NeOゴーリー40番齋藤選手もこれを良くセーブ。MISTRALに流れも渡しきらない。MISTRALゴーリー21番高橋選手もNeO17番西村選手のドライブをセーブする。MISTRALは5番井田選手(同志社)77番原選手の果敢な1on1も飛び出しもう1度流れを呼び戻そうとする。両チームの攻防は激しさを増し1点を巡る攻防は3Q最後まで続いた。

このクォータ。最初にNeOに得点を奪われ4点差にされるも、前を向き今日決めたスタイルを貫き通したMISTRALの攻撃はMISTRALらしいものだった。特に欲しい所でターンオーバーをモノにしたスクープスピードと左45度から堂々と決めたMISTRAL90番木村選手(成蹊/新人)の集中力には脱帽させられた。NeOのショットも要所を抑えきったMISTRAL21番高橋選手のセーブモードも最高レベルに達しているように見え4Qの最後の15分にMISTRALファンが寄せる期待も最大限高まったと言える。

一方NeOサイドから見ると3Qの最初に素晴らしいセットからの攻撃が決まったものの直後のドローからボールを奪われ、3度目にはドロワーを変えたが連続で取られる後手後手の展開となり攻撃の機会を得られないまま終了をする嫌な流れとなった。  Q 1対3 トータル 7対6

 

<4Q> NeO 対 MISTRAL  0対2  トータル 7 対 8

NeOもMISTRALもハードプレスを更に強めオールコートでハイリスク覚悟の攻撃的ディフェンスを仕掛け合うことが予想された4Q。ドローをMISTRALが奪うと、23番井畑選手のFS,83番櫻井選手のインサイドブレイクと畳みかけるも、NeOゴーリーが壁となる。自らチェイスも取り、ピンチを救うとNeOも仕掛けるがMISTRALDF95番岩田選手が小柄な体を張って阻止。反則を誘いターンオーバー。お互いリスクを最小限にしながら攻撃、ライドの機会をうかがう展開もMISTRAL90番木村選手のショットに対して又もやNeOゴーリー40番齋藤選手が立ちふさがる。お互いに胃の痛くなるような展開が続いた。NeOサイドから見ると、いつもなら要所で見せる5番森岡選手。6番多賀選手のインサイドブレイクの仕掛けもなく外回りのパスに終始する。時折見せる10番藤井選手。14番岡田選手の1on1仕掛けもゴーリーのセーブコースとなりブレイクができない。MISTRALも残り7分を切って多少の焦りも出たか痛恨のパスミス。厳しい状況になりつつあった。NeOは定石通り時間を掛けながらの攻撃。それでも左45度から24番小林選手がショットを放つが枠外。MISTRALがターンオーバーに入ったのが残り5分。ここからがドラマの始まりだった。1分を掛けたクリア81番亀井選手のランクリアから始動したアタック、ポゼッションから裏83番櫻井選手からの折り返し81番亀井選手がNeOのDFスペシャリスト28番廣瀬選手の裏からロールアウト、廣瀬選手は間に合わず、ぎりぎりでキャッチすると角度のない所から一振り。ゴーリー左上隅を射抜きついに同点としたのが残り3分。そしてドローをNeO 24番小林選手から遠ざけて味方に送ったMISTRAL16番井上選手。貴重なドロー獲得は23番井畑選手から83番櫻井選手へ90番木村選手を経由してワイドに張った16番井上選手に戻った。井上選手一気に加速MISTRAL右サイド45度20mを2ドッジ、DFのチェックを巧みに交わしてインサイド 5mから鮮やかにゴーリー左上隅を打ち抜いた。

そして残り2分半、ここから体を削り合う攻防が始まった。NeOはタイムアウトを使い切り次の攻撃に賭ける。ドローも取ってポゼッション。FS 6番多賀選手決めるかと思われたが、笛とのタイミングがずれ打ち切れずやむなく展開もMISTRAL守備陣集中して対応する。ここは思い切ったパワーブレイクもあるかと思われたが、パスを選択通らず万事休す。 4Q 0対2  トータル 7対8  MISTRALは9年ぶり8回目の優勝を飾った

 

こぶ平的MVP

この試合MVP等の公式な決定はなかったが、こぶ平的優秀選手は:

★最優秀選手 MISTRAL 16番 井上果歩選手(立教大学)

ドローへの貢献と決勝点となる完璧なダイブプレー。

★優秀選手 NeO 12番 高野ひかり選手(横浜国立大学)
大きな怪我明け2戦目でチーム最多の3得点。その切れとショットスピードは健在だった。

敢闘選手賞 MISTRAL 71番 倉田瑠々選手(早稲田大学/新人)
持ち前のアジリティで日本代表DFとの1on1を制して先制点を挙げた。その後のMISTRALの1on1パワーの起爆剤になった。

MISTRAL 90番 木村圭那選手(成蹊大学/新人)

劣勢の流れを変えるライドグラウンドボールの高速スクープからのアシストと流れを確実に引き寄せた右45度からの豪快なショット

こぶ平‘s View>

  • 3Q開始早々 3対7の劣勢をMISTRALが覆した理由は何だったのか?

東日本クラブリーグ戦決勝とクラブ選手権決勝における、両チームの変化について。今回新たにスタッツに加えた項目。ミスを見ると気づくことがある。それを含めて以下の5つを挙げてみた。

  1. 攻撃的守備からのブレイク攻撃の成功。(ターンオーバー数の大幅増)
  2. ドロー(特に後半の)の頑張り
  3. 1on1への回帰によるショット決定率の倍増。(枠内ショット率も上がっている)
  4. ゴーリーのセーブ率が高い
  5. ミスが少なくなった
  1. 攻撃的守備についてはチーム戦略もあったのだろうが、この試合以前は攻撃的守備の姿勢は見せたものの、守備からのブレイクよりそこからの時間を掛けたセットオフェンスが多かったMISTRAL。その為に相手のセットされた守備を崩すのにも時間がかかり、又崩しきれずに終わる事が多かった。しかしこの試合ではじっくり進めるべきところは確実に、しかし、守備からの速攻(ラクロスではブレイクアタックと呼ぶことが多い)の機会を多くし、NeOの守備の整わないうちに得点を狙う攻撃が増えた。実際の得点は3点に終わったが、これにはNeOのディフェンスラインを押し下げる効果もあり、自陣から中盤でのMISTRALの自由度がリーグ戦決勝より上がった。それによりMFの動きの質も上がり前に繋げる形が増えたのだ。トータルのショット数はリーグ戦決勝時と変わらなかったが、その質は「打たされた物」ではなく狙ったものだったのが良かった。
  2. ドローの頑張りについては、スタッツにもある通り前半と後半ではっきりと数字に違いが出た。「頑張り」と書いたが前半NeO24番に自由に高くあげられていたのが後半は横に飛ばされるようにMISTRAL16番井上選手がコントロールした。そしてドロー取得率80%を誇るNeO24番小林選手に対して五分に渡り合った事は、後半の反撃の大きな武器となった。
  3. 1on1への回帰。実はこれが一番大きな変化だったと考えている。1on1での優劣というのはラクロスにおいては最も基本的だが、最も重要な得点に関する要素だと考えている(これは、こぶ平の私見ですが)。試合において1on1がどうしても劣勢な場合ブレイクスルーにはパス回しがあり、ゾーンに飛び込みパスを合わせてショットを打つ。パスを速く回して隙を作り仕掛ける。というようなパターンだ。しかしディフェンス技術が向上すると実はこの試みが破綻することが多い。ショットが打てなくなるか、ショットを打たされてしまうのだ。以前のMISTRALにはその傾向があると見ていた。東日本リーグ戦決勝のショット決定率の低さもそういう所があったと考えている(東日本リーグ戦 対FUSION戦はショット決定率が40%だがそもそも10本しかショットが打てていないのが問題だった。)。そしてこの試合では8得点中7得点が1on1で作った得点であり、7点目となった81番亀井選手の得点もNeOのDF28番廣瀬選手の裏を取る1on1での勝ちからの抜け出しにパスが合わされたものだった。その最たる物が決勝点の16番井上選手のダイブであった。
  1. ゴーリーのセーブ率が高いについては、もう語らずともお分かりだと思う。1番大沢選手、21番高橋選手、88番永田選手(学習院/新人)のセットは日本のゴーリーの最強布陣だと考えている。特に21番高橋未帆選手は際立ったパフォーマンスを見せている。この試合セーブ率が下がっているように見えるがこの内4点は完全にDFを凌駕したNeO12番高野選手の技術とDFミスによる完全フリーの物だった事を考えるとやはりハイレベルだ、NeOがFSを4本も枠外に打たされたのもゴーリーを意識してコーナーを狙った結果だ。
  2. ミスが少なくなった、については1Qとその他について分かれるところだが、1Qで見せたミスの結果を引きずらず、後半はミスらしいミスを無くし得点への流れを切らさなかった事は大きかった。
  • NeOには何が起こったのか?

3点を挙げておく

1) MFが若く、又NeOでの戦術実行の経験が少なかった。

2) 1)の理由に依存するのかもしれないが、5番森岡選手、6番多賀選手の強みである1on1によるブレイクが見られなかった。

3) 以外に若手の、年長プレイヤーに対する依存度が高かった。

NeOのスターターを見てみよう

G40番齋藤(北海道/5年目) DF28番廣瀬(上智/日本代表/7年目)34番戸村(日本体育/日本代表/新人)、47番菅谷(成蹊/日本代表/3年目)、DR&MF24番小林(日本体育/日本代表/4年目), MF10番藤井(日本体育/日本代表/新人)、89番井上(青山学院/日本代表/4年目)、AT2番鈴木(日本女子体育/新人)、3番山根(日本体育/新人)、6番多賀(明治/日本代表/7年目)

1)      MFが若い。に関して上記のスターターリストからもわかる事だが、昨年大きく変わり若返った。特に世界選手権以降12番高野選手(横浜国立/日本代表/9年目この日はATとして出場)、さらに東日本クラブリーグ戦決勝戦以降28番水野果奈子選手(筑波/日本代表/7年目)が離脱して完全に新しいセットになったが、代わりの選手にそれをカバーできる経験が詰めなかった。13番今井選手(信州/4年目)14番岡田選手(国士舘/4年目)16番辻選手(東京/3年目)の進化はあった物の2人のパフォーマンスを完全に埋める事は出来なかった。結果的に攻撃の幅が狭まり単発的な1on1の仕掛けに終始した感が否めない。

2)      5番森岡選手、6番多賀選手の強み が出せなかった? についてはチーム事情があったのかも知れないが、この2選手のインサイドでの働きがNeOの攻撃の幅を広げていたが、決勝戦ではほぼ消されてしまった。MISTRALの守備陣の進化が在ったのかもしれないが、12番高野選手もいない東日本クラブリーグ戦決勝では、多賀選手が3点を挙げて若手の得点も引き出せていたことを考えるとこの強みを出せなかった事は大きかった。

3)      若手の年長プレイヤーへの依存度が高かった については日本代表選手も多い環境で、若手も力をつけてきているのだがあまりにも代表選手のパフォーマンスが良いと、「そこへ預ければ良い」とか「良いボールが来る」という環境に慣れてしまい、逆境時のブレイクスルーを持っていない状況だったことに気付かない事が起こる。さらに良く点を取れる状態が続くと、点を取れてしまうという状況を、自分たちで取れるという状況に錯覚してしまいがちになる。それがこの決勝戦での敗北の真因ではないかと思っている。付け加えるならドローも24番小林選手に依存しすぎているキライがある。決勝でも小林選手に代わり岡田選手がドローに入ったがコントロールできなかった。(実は7対4と追い上げられたタイミングでのドロワーの変更にも疑問は残った。)

こうして(勝手な見方だが)9年ぶり(8回目)にクラブ王者を奪回したMISTRAL。最後の戦いは全日本選手権における慶應義塾大学との戦いとなる。実は前回優勝の2013年クラブ王者MISTRALは全日本選手権決勝でも同じくクラブ選手権決勝で戦ったNLC SCHERZO11対7で破って日本一に輝いている。しかしその前の2012年は、初めて大学日本一となって勢いに乗る慶應義塾大学の、今の女子ラクロスに転換するきっかけとなったゴーリーを含めた機動的なラクロスに6対10で敗れている。勿論その時の事を体験した選手はMISTRALにはいない。わずかにチームのMGで栄養コーディネーターを務める斎藤奈々子元選手(日本体育大学)のみがそれを体験している。さて、次の戦いはいかに?

取材後記

★MISTRALが今回勝ち切った最も大きな原因は、試合後キャプテンの43番田中希実選手(立教大学/SIXES代表)が語ったように、2014年に失った覇権を取り戻すべく進化を模索し続け、さらに2015年からMISTRALへの壁として立ちはだかったNeOへの挑戦の過程で築き上げ、たどり着いた、ベンチ・攻守全員によるブレイキングラクロスにあると考えている。今の体制になって3年目。これまで守備的、得点力が不足している等の辛い評価をしてきたが、この決勝戦の気迫に溢れ、集中力の高い、しかも試合中でも変化を良しとする、そして何よりも楽しいラクロスを展開されたことに、僭越ながら最高の評価をさせていただきたいと思います。

★MISTRALに見た世代の台頭について、昨年からすると小堀選手の引退で2013年優勝当時のメンバーが選手には存在しなくなった。そして新しいMISTRALを牽引してきた鈴木選手(明治大学/日本代表)が胎休となり、中堅世代主体に移行したが、さらに5年目以降の若い世代主将の田中選手や先取点を引き出した原選手(早稲田)、DFの要の岩田選手(早稲田/SIXES代表)から福谷選手(明治)、杉浦選手(日本体育)、佐藤選手(東海)に続く、決勝ゴールを決めた井上選手(立教/SIXES代表)や福岡から来た稲田選手(福岡)、Z世代の千葉選手(東海)やハットトリックの櫻井選手(立教/日本代表)、大杉選手(東京家政)に向上心の固まり新人の木村選手(成蹊)、倉田選手(早稲田)、永田選手(学習院)、井田選手(同志社/SIXES代表)、小瀬選手(明治/SIXES代表)等々各世代の融合と自立をも促した事は来年以降クラブラクロスをリードしていく可能性をも秘めている。

★しかし、決勝で敗れたNeOも次年度以降今年果たせなかった世代間の融合と自立がなされるであろうし、MFの経験も重ねられるであろう事は試合後のNeOの選手を伺っても良く分かった。観客席から見ていた他のクラブの選手からも負けてられないという声も出てきている事を考えれば2010年代に見られた刺激的で6チームが切磋琢磨するクラブラクロスの時代が戻ってくる可能性も感じた。

☆是非

コロナ禍でラクロスをやり足りなかった大学の選手。更に世界を目指したい選手。是非クラブチームへ参加して欲しい。先にも書いたように今は多様な大学から日本代表になる機会があるんです。クラブラクロスは最高峰のラクロスを目指しています。でも皆さんに門は開かれているんです。

第32回ラクロス全日本選手権大会

開催日時  2022年12月8日 10時45分 ドロー予定

場所    聖地 江戸川区陸上競技場

対戦相手は2012年の借りを返さなければならない、慶應義塾大学。

【見所】

  1. 究極のオールコートラクロス決定戦
  2. アタックの対決

ともに守備と攻撃を融合したラクロスを展開するがアプローチは異なる。今年女子大学ラクロスに新風を吹き込んだ慶應義塾のラクロスは10人にも及ぶ多様なアタック選手が織り成す変幻の攻撃であり、それを支えるドローと強度の高い攻撃的守備が特徴であり、更にMISTRALに勝るとも劣らないゴーリーズの存在もある。一方MISTRALも10年に渡る先人の思いに報いるために研鑽してきた、全員が献身し、全員がチャンスを伺うラクロスで対抗する。慶應義塾大学出身のゴーリーズの「絶対に負けられない戦いがそこにある。」

戦いのポイントは

①      ゴーリー対決

②      攻撃機会をどちらが多く持てるのか

③      グラウンドボールでの寄りの速さと、球際の強さ

④      1on1で勝負できるか

だと思っているが、双方の戦術が相手に嵌らなかった時の修正力も問われる戦いになる。

大会トリビア

この全日本選手権優勝の経験を持つ選手が、両チームの中に1名だけ居られます。誰でしょう?

☆正解は
MISTRAL ゴーリー1番 大沢かおり選手です。

下記写真上段左から2番目番号28番 Photo by Akie Umeda

当時は3年生でまだ2ndゴーリーでした。実は慶應義塾大学は2018年も全日本選手権に出場していますが、その時は準決勝でNeOに雪辱を許しています。大沢選手にとっても4年ぶりの雪辱となったわけです。大沢選手が書かれた4年生時のブログには

「覚悟」が、大切だ   とあります。どんな覚悟を見せてくれるのでしょう。

そしてMISTRALも2013年以降悔しい大会もありました。2018年第29回大会において決勝戦でNeOと対決 4対7(後半2対2)で優勝を逃しています。その時の得点者は23番井畑選手(当時0番)、81番亀井選手(当時42番旧姓立山)です。キャプテンの43番田中選手を始めゴーリーの21番高橋選手等胎休中の0番鈴木選手を含め14人もの雪辱の思いも決勝に向かいます。

2018年全日本選手権大会 Photo by Akie Umeda

10年にも渡る 恩讐の彼方?にはどんな景色が待っているのでしょうか?

次回は全日本選手権の前に 関東Teen’s 秋の総括をお送りする予定です。

やっぱりラクロスは最高!

こぶ平

関連記事