【こぶ平コラム 】 2022年ラクロス全日本選手権・女子ラクロスの楽しみ方
第32回ラクロス全日本選手権が今週末に迫って来た。奇しくも今世界はサッカー男子ワールドカップの終盤であり12月18日に決勝戦を迎える。巷ではサッカー談義が繰り広げられ、俄かに増えたサッカーファンも含めて戦術論や、個人的な「推し選手」のプレイに沸いている。そこでラクロスでも、俄かで良いから「ラクロスを楽しんでいただきたい」という思いからラクロスプラス的というか「こぶ平的、全日本選手権の楽しみ方」書いてみた。当日は会場にお越しいただきたいのは山々だが、全国各地からライブで画像を楽しめるようになった。是非画面越しだからこそPCの画面共有やスマートフォン越しに皆さんで盛り上がって欲しい。その楽しみ方は自由だ。「推しプレイヤー」のプレイに注目するもよし、ショットに一喜一憂するだけでも楽しめる。しかしそこはこぶ平流楽しみ方の提案。色々な展開を楽しめるように種々の情報を提供していきたい。それを基に、皆さんで予想していただきながらご覧いただくのがベストだと思う。
第32回ラクロス 全日本選手権
高い総合力の強さで勝ち切った両チームの戦いは、個の強さの戦いで決まる?
女子 MISTRAL vs 慶應義塾大学
男子 FALCONS vs 慶應義塾大学
プロローグ
リーグ戦の全日本クラブ・大学選手権を勝ち抜いて来た両チームには共通点が多い。基本的に総合力が非常に高いのだ。しかも全体のシステムが高いレベルで構築されているので、得点を重ねるにはやはり個の力の対決を制する必要が出てくる。(例えばサッカーのクロアチアを破ったアルゼンチンといえばわかりやすいかも知れない。)しかし個の力を凌駕するシステムも又存在する。(サッカーのクロアチアがブラジル追い込んだケースがそれだ。)さらにシステムとシステムが、別のタイプのシステムのぶつかり合いになった時はシステムの優劣という物も問われる。第32回全日本選手権はいかなる戦いなのか知っておいて損はない。先ずは女子から。
☆女子
【概要】女子のラクロスは2012年の慶應義塾大学の日本選手権制覇(その時の対戦相手がMISTRAL)により大きな転換点を迎えたと考えている。AT,MF,DF,Gの役割が明確でシステマチックというよりは個の力を基に試合が組み立てられていた。ゴーリーもセーブをしていればその役割は十分だった。しかし2012年の慶應義塾大学のラクロスは動けるゴーリーをベースに全員が高い運動量で、オールコートをカバーし相手の攻撃の機会を奪うラクロスで勝利を物にした。大学生の場合選手の入れ替わりが起こるので翌年はMISTRALが覇権を奪還するが、運動量豊富な全員ラクロスの流れは当時練習量の多い大学に有利となり2014年から2017年にかけての大学優位時代をもたらした。しかし、クラブチームの育成力がシステマチックになり体力面でも凌駕をするとやはりクラブ優位の時代に戻っている。
【戦力分析】まだ、絶対的な力の評価を下すデータは持ち合わせていないので、今期使用しているショット決定率等から見て行こう。(敬称略)
2022年コロナ禍もあり、10人だけではなく交代要員のレベルを更に多くの選手についても上げてきた慶應義塾はリーグ戦から全国大会を通じて圧倒的なトータルラクロスを存分に繰り広げてきた。リーグ戦Bブロックでは対 日体大戦こそ 8得点 に終わったが得失点差67点で関東1部史上最多。全国大会でも全試合10点以上を奪い続けた(3試合)。全国大会2試合のスタッツが上だが。ドロー、ターンオーバーの数で相手の攻撃権を奪い自らの攻撃に結び付けている様子がわかる。2022慶應義塾ラクロス。その考え方は「ドローも強くし、攻めの守備で相手の攻撃機会を奪い、自らの攻撃機会を増やす。圧倒的なラクロス」を目指す事でありそれを実現した。
一方のMISTRALだがまず、ドローについてはクラブ選手権決勝戦では有利に進めなかったと見えるが、後半は互角以上に戦った数字が残っている(63%)。これも日本を代表するドロワーに対して残した数字である。さらにより強い敵に対してショット決定率を上げてきている。実はショット数20というのは 対 NeO戦では東日本リーグ戦決勝時と同じ数である。しかし被ショット数が31->23に減少している。リーグ戦決勝時からの変化はもう1つターンオーバー数の大幅増(5->12)である。(因みにこのターンオーバー数にはゴーリーによるセーブ数は含まれていない。パスミスによるアウトオブバーンズも含まれない。グラウンド上でのボール奪取もしくはグラウンドボールからのアウトオブバーンズおよびチェイスによる数のみ)ここからも読み取れるようにMISTRALも又攻撃的守備から相手の攻撃権を奪っていることが見てとれる。
もう一つのパラメーターはゴーリーズ(両チームとも良いゴーリーが複数いる)のセーブ率だが、MISTRALの方がショット力があるクラブチーム相手にセーブ率でも高い数値を連続して出している為、MISTRAL有利と思われるが、慶應義塾のゴーリーのセーブ力も高い。実際に日本代表として世界を経験してきた慶應義塾51番藤田選手のここぞという時のセーブは凄い(対 関西学院戦1QのFSへのセーブ対応は見事だった。)お互いミドルレンジから決めることは難しそうだ。鍵はインサイドブレイクとなる。ゴーリーの鍵はむしろ攻撃の拠点となりうるかである。ともに攻撃的守備で奪取したボールを時に応じて素早く前方へ渡せるか?ゴーリーはその部分を担う。そこには注目して欲しい。
そして攻撃面だが、互いに守備からのブレイキングアタックを担うタレントはいる。しかし、最初で述べたようにシステムとして高いレベルで仕上がっている場合、個の力が重要になる。個のレベルで見た場合MISTRALの
MFは強い。16番井上選手(立教)43番田中選手(立教)、81番亀井選手(立教)、83番櫻井選手(立教)カルテッドだ。さらに大きく進化した90番木村選手(成蹊/新人)に、23番井畑選手(学習院)の長身コンビも高さの点で慶應義塾のディフェンスに対して優位に立てる点がある。対して、慶應義塾は個のレベルの技術が高い。3番秋山選手(美/日大高/新人)、4番山根選手(塾高湘南藤沢/2年)、17番岩本選手(慶應義塾ニューヨーク学院)、22番西股選手(慶應義塾女子)、33番山本選手(同志社)、47番橋本選手(大教天王寺)、71番平井選手(同志社)、74番秋山選手(雅/桐蔭学園)、88番川久保選手(慶應義塾女子)と多様な攻撃陣だ。そして上手いただ、個で何とかするタイプが少なく、強さの点では劣勢となる。そこをどのように埋めてシステマチックに攻めるのか?ポイントはその1点である。ポイントは個の力でこじ開けようとする裏からの71番平井選手、表からの74番秋山選手だが、気持ちが前に出る17番岩本選手の動きに注目をしたい。
そんな中大きなカギを握るとみられるものが2つある。
- フリーシュートの成功率
フリーシュートの機会はこのレベルになると極端に少なくなる1試合に2,3回(もしそれ以上の^になれば劣勢は免れない)であろう。それを確実に決められるか。数値的には慶應義塾が有利。 - ミスを犯した方が負け。相手のミスに集中して機会をモノにできるか
2012年の全日本選手権を振り返ると、MISTRALが前半に犯したミスが試合を決定させている。MISTRALはミスが少ないチームではないのでそのリカバリーにも集中すべきである。
<こぶ平‘s View>
限られたベンチメンバーで60分戦えるのはどちらなのか?
全日本クラブ選手権決勝における、MISTRALの戦いぶりは後半勢いを増し3点差をひっくり返す力を見せた。一方の慶應義塾だが10点を取り切れなかった戦いが2つある。1つはリーグ戦初戦の日本体育大学戦(8対4)とリーグ戦ファイナル4での対明治大学戦(6対5)。特に明治大学戦は最後の最後まで明治の守備陣に苦しめられショットの機会が得られなかった。その後の試合で立て直したが、明治大学の執拗な守備に対して個のブレイク力を試された試合だった。そして、その後は明治大学に匹敵する守備のチームには出会っていない。本格的なディフェンスに対応して、攻撃機会をMISTRALより多く得られるかが鍵である。やはり33番山本選手88番川久保選手の働きに掛る物は大きい。
逆にMISTRALからすれば、ブレイクからの攻撃機会をどのように生かすか最大のポイントだ。81番、83番へのマークに対して他の選手がどのように補完してブレイクをできるか。MISTRALの81番、83番以外の選手の動きに注目して欲しい。
という事で、女子の MISTRAL 対 慶應義塾大学 は中盤の激しい攻防が軸となるが、お互いが相手の長所を消し合う試合ではなく、自分たちの長所を出し合うスリリングな試合になりそうだ。
トリビア
以前にも書いたが、選手の中で、全日本選手権で優勝した経験を持つのはMISTRAL 1番大沢選手のみ。そしてMISTRALの選手の多くは2018年のNeOとの全日本選手権を経験している。しかし、2012年の慶應義塾大学の初優勝に導いたHC大久保氏AC石川氏は健在である。「慶應義塾大学は今年目指してきたものを堂々と、全部出す」と言われると思うが、その全部が100面相の如く色々ある。決して選手の経験だけで差が出るとは限らないようだ。
★ゴーリー対決
MISTRALの主戦ゴーリーの二人1番大沢、21番高橋は慶應義塾大学出身であり、慶應義塾大学2番栗山(3年)、51番藤田(日本代表)とのゴーリー対決にはお互いに譲れないものがある、最後の最後に試合を決めるのは、ゴーリーの決定的なセーブだと見ている。
★若手対決
慶應義塾の攻撃には2枚の若手が加わる3番秋山(美/1年)と4番山根(2年)だ。対するMISTRALには、慶應義塾をライバル視していた若手も多い。日本代表の83番櫻井(2年目)以外にも3番千葉(東海)、12番大杉(東京家政)、28番橋本(大東文化)、57番金井(東海)、59番栗原(実践女子)、70番佐藤(日本女子体育)。新人にも5番井田(同志社/SIXES代表)、9番坂本(日本女子体育)、25番大野(学習院)、36番小瀬(明治/SIXES代表)、71番倉田(早稲田)、88番永田(学習院)、90番木村(成蹊)と日本一になるためにMISTRALに参加した選手がどのような活躍を見せるかも要チェックだ。
★ヘッドコーチ対決
攻撃的なラクロスでガチンコの勝負を演出するのは外ならぬ2人のコーチだ。MISTRAL 敷浪HC 慶應義塾大学 大久保HC お互いの策は、どちらが嵌るのか試合の中での修正にも手腕が問われそうだ。
是非会場で見て欲しい。今年のような展開が速く攻撃的なラクロスは、ストリーミング配信では全体も見渡せないので会場ですべてのお勧めを観戦して欲しい。
第32回ラクロス全日本選手権大会
開催日時:2022年12月18日 10時45分 ドロー予定
場所:聖地 江戸川区陸上競技場
MISTRAL 対 慶應義塾大学 10年ぶりの対決。
ラクロス全日本選手権女子ラクロス見所まとめ
- 究極のオールコートラクロス決定戦
- アタックの対決
ともに守備と攻撃を融合したラクロスを展開するがアプローチは異なる。今年女子大学ラクロスに新風を吹き込んだ慶應義塾のラクロスは10人にも及ぶ多様なアタック選手が織り成す変幻の攻撃であり、それを支えるドローと強度の高い攻撃的守備が特徴であり、更にMISTRALに勝るとも劣らないゴーリーズの存在もある。一方MISTRALも10年に渡る先人の思いに報いるために研鑽してきた、全員が献身し、全員がチャンスを伺うラクロスで対抗する。慶應義塾大学出身のゴーリーズの「絶対に負けられない戦いがそこにある。」
戦いのポイントは
① ゴーリー対決
② 攻撃機会をどちらが多く持てるのか
③ グラウンドボールでの寄りの速さと、球際の強さ
④ 1on1で勝負できるか
だと思っているが、双方の戦術が相手に嵌らなかった時の修正力も問われる戦いになる。
10年にも渡る‘恩讐の彼方‘?にはどんな景色が待っているのでしょうか?
次回は全日本選手権見所 男子編
やっぱりラクロスは最高!
こぶ平