こぶ平コラム

【高校ラクロス】2022年 中高女子ラクロス春季関東大会 代替大会 準決勝

先日ベスト8の試合が終了した関東春の中高女子ラクロス代替大会。6月19日(日)ベスト4による準決勝が東京オリンピック&パラリンピックのホッケー競技会場となった東京大井ホッケー競技場メインピッチで実施され、会場にふさわしい “熱戦” というより “激戦” が繰り広げられたのでその模様をお伝えしていく。

参加校は以下の通り。(校名は略称)

予選Aブロック1位 東京成徳大中高(BRAVE YOUTH全国1位)
予選Bブロック1位 横浜市立東高(EAST GIRLS全国2位)
予選Cブロック1位 日本大中高(AQUA 全国3位)
予選Eブロック1位 桐蔭学園高(SERAPHS 全国5位)
は準々決勝で秋の大会で敗退した、目白研心中高に勝って進出を果たした。

高校チャンピオンの東京成徳大中高に挑んだのは、桐蔭学園高。そして全国2位の横浜東高に挑む形になったのは日大中高。2試合とも戦前の予想を覆す激しく、拮抗した試合が繰り広げられ春高ラクロス史上に残る試合となった


準決勝対戦カード
① 東京成徳大中高 vs 桐蔭学園高
② 日大中高 vs 横浜市立東高

<序>各試合をお伝えする前に準決勝を見て持ったことを述べておきたい。

スポーツ全般で言える事なのかもしれないが、特にTeen’s世代においては試合に臨む上での、作戦のあり方から繋がるマインドセットの影響が強く出る事は、全国大会での 東京成徳大学中高 vs 日大中高戦の選評でも述べた通りだが、それを超えて勝利を手繰り寄せるのは、選手の判断力であり決意であることが改めて良くわかった試合だった。その詳細をお伝えしていこう。

東京成徳大中高 vs 桐蔭学園高

試合前の予想では観客を含め、関係者の多くも秋のリーグ戦で圧倒的な強さを見せ、全国大会でもその強さを見せつけた東京成徳大中高の試合ぶりに注目をし、春になって3年生の多くが引退をしたり、平日練習もままならない桐蔭学園は厳しい戦いを強いられると考えていたに違いない。(実は私もその一人だった。)しかし、全員の気持ちを一つにして今できうる最高のパフォーマンスを出すべく爪を研いでいたのが桐蔭学園高の選手だった。確かに試合前も声が良く出ていて、その面からも良いパフォーマンスが期待できる雰囲気は漂っていた。

そして試合開始

★1Q

最初のドローは、強さを見せていた東京成徳5番 vs 桐蔭学園31番のマッチアップ。これを桐蔭学園の31番が競り勝ちまずは桐蔭学園のポゼッション。いつもと違い積極的に動きブレイクポイントを突こうとする桐蔭学園が相手反則から3番のフリーショット。これは東京成徳ゴーリーがセーブしターンオーバー、東京成徳の速攻 7-5 のラインが繋がりショットは、やはり桐蔭学園のゴーリーが難なく処理をする。その後東京成徳のショットは枠外となり所謂「軽いプレー」と見える形となった。一方の桐蔭学園はゴーリーの的確な指示も受け全員が強い気持ちで前で、前で攻撃の芽を摘み中盤では互角以上の戦いを見せていた。厳しく行くのでマンダウンとなったがそのターンオーバーでクリア成功すると、ポゼッションからブレイクショットを見舞い、跳ね返りを桐蔭学園31番がスクープショット。これが決まり桐蔭学園が先制をする。しかし東京成徳も流石の強さで続くドローを取り切ると2度目のターンで4番が持ち前の速さでブレイク成功。1対1とする。ここで追いつくのは東京成徳らしく、2Qでの優勢を思わせて終了した。

★2Q
東京成徳が優勢を取り戻すと思われた、2Q。この日の桐蔭学園の集中力と、全員のまとまりはドローも渡さず、東京成徳の自由を奪いショットの精度も低くすることに成功。開始早々の3番のインサイドブレイク、45番のインサイドブレイクが続き、東京成徳の自慢の守備にも臆することなく挑む姿は会場で見守る観客を熱くしていた。さらに桐蔭学園31番のインサイドブレイクが奏功するが、これはイン・ザ・クリースの判定。ターンオーバー東京成徳は劣勢を跳ね返すべく速攻を掛けるもブレイクは、桐蔭学園10番ゴーリーのセーブ。しかも跳ね返りを東京成徳アタックとのチェイスランに走り勝ち最後は倒れこむ。数分間立ち上がれないような魂の走りは、桐蔭学園の奮い立たせ、反撃に出ようとする東京成徳を勢い付かせる事なく、激しい攻防を制する形で2Qを終了した。2Q後半5分間の攻防は見る者を引き付ける者だった。

2Q 0対2 トータル 1対3  東京成徳は新チームで公式戦初めて前半を2点差をつけられ終了する。さらに東京成徳は前半10本のショットを放つも得点は1点。方や桐蔭学園は9本で3点という結果だった。

★3Q
激しい攻防は3Qに入っても続く。いつも通りインターバルで気持ちの入れ替わる東京成徳に対し、強い気持ちで対峙し続ける桐蔭学園。簡単に相手に流れを渡さない。しかし、ここで東京成徳に救世主が現れる。それは62番のアタッカーだった。3Q最初の5分間の攻防で2点を奪うと、味方の気持ちも高め、3番の倒れてからのショットを決める執念も呼び覚まし、3Q終わってみると5対4と一気に逆転するビッグ・クォーターを演出した。桐蔭学園も厳しい守りは崩れなかったが、東京成徳62番の鋭い動きはそれを上回るものがあった。
3Q 4対1  トータル  5対4

★4Q
東京成徳62番の勢いは止まらず、初めて見せるドローからの自取りブレイクでさらに加速する。そこからは62番のワンマンショーとなり、ドローにショットに縦横無尽の活躍は、4Qだけで圧巻の4連続得点で試合を決め、両チームで脚が吊るものが続出する消耗戦を颯爽と走り抜けた。気温が上がり、グラウンドからの蒸すような熱に体力を奪われた桐蔭学園も最後まで守備に、反撃に力を掛けたが最後は力尽きた。しかし、その姿には会場からも勝った東京成徳以上の拍手が送られたことをお伝えしておこう。

4Q 5対1  トータル 10対5

この試合、東京成徳62番の活躍が大きかったのだが、試合当初に定めた作戦から選手が自主的に判断し作戦を変更。62番の活躍を引き出し3Q、4Qの9点を演出した。選手が自分で考える力、ラクロスIQの高さが逆転のベースにあった。それが東京成徳大中高ラクロスの強さなのだ。<序>で述べた選手独自の判断力が試合を決めたのだ。しかし、当初の劣勢予想を覆し3Q終盤まで東京成徳大中古旺を追い詰めた桐蔭学園には劣勢の予想をしていたことを謝罪したい。本当に素敵なラクロスを魅せてくださいました。

日大中高 vs 横浜市立東高

こちらの試合も、エースの1枚を欠いたまま臨まざるを得ず、又準々決勝でも秋の大会で11対4で勝利した伊奈学園に対して第4Qには1対2とされるなど調子が上がってこなかった日大中高に対して、全国大会で優勝を逃した後、この大会に焦点を合わせて、多くのレベルの高い相手との練習試合を重ね万全と思える体制で臨んだ横浜東高との間では相応の差がつくのではないかという雰囲気が支配的だった。一つ異なる点があるとすれば、日大中高は準々決勝時にはテスト直後であった事から、その後は集中的に練習はできたであろうことと、スタンドから見つめる偉大な先輩からの応援が奮い立たせる要因として加わった。

★1Q
開始早々、ドローから横浜東がポゼションを得るも、日大中高はお家芸のDFの集中力が高く攻めさせない。逆にターンオーバーから縦のフィード一本、エース77番に渡り反転ショットを決めると一気に盛り上がった日大中高。守備の集中力も増し、何よりドローへの寄り、グラウンドボールへの寄りで横浜東を圧倒、横浜東のエース71番の個の強さ出した単発的なブレイクのみに抑え込み、終了間際放った横浜東のショットも、終了のホイッスルに拒まれ認められず終わってみれば 3対1 と日大中高が完全に試合する展開となった。特に目に付いたのが日大中高2年生の19番。1Qには鋭いブレイクからフリーショットを決めるのだが、その生まれ変わった如くの動きはその後も試合をリードする主力となった。

1Q 3対1

★2Q

2Qに入っても、日大中高77番のドローコントロールが続き、それを鋭い動きで決める19番。連続得点で5対1と突き放し、応援席も盛り上がる日大中高。その後も日大中高77番のドローコントロールが続き横浜東に対して散発的な攻撃の機会しか与えない。それでも横浜東は少ない機会をエース71番の高速ダイブや12番のインサイドブレイクで懸命に追いかける形で2Qを終了した。

2Q 3対2 トータル 6対3

★3Q

リードを広げた日大中高は、焦り始めた横浜東に対して得意のじっくりと攻め上げる形から、緩急自在の形で横浜東にプレッシャーを与えフリーシュートを得ると6番が決めて7対3とし日大中高のペースを相手に渡さない。しかしここで横浜東にもその劣勢を覆さんとする選手が現れた。2Qまでに2点をたたき出し、全国大会では万全でなかった脚も完全復活した72番である。7対3からなんとかポゼッションに持ち込むと圧倒的なスピードでブレイクをし一気に2点を返す。そのプレーは一人早送りをしているかのようにすら思えた。しかし、試合は日大中高のドロー優位は崩れず、6番のセンタープレーで追加点を挙げ流れを渡さず、その後も70番のオープンサイドへのランからのサイドハンドのショットが決まるが、これは逆にデンジャラスフォロースルーの反則で、日大中高ウーマンダウンとなるが、持ち前のキープ力とミスのないパス回しで凌ぎ切り3Qも日大中高のペースで終えた。

3Q 2対2 トータル 8対5

★4Q

とにかく、攻める機会が得られなかった横浜東は前からのプレスを強めていく。そして奪ったボールを82番が速攻へ持ち込んだところで、日大守備陣が遅れてプッシュ、後ろから押す形で倒れる選手。不可抗力に見えたが危険なプレーとみられて、レッドカードが出された。その瞬間静まり返る競技場。(倒された選手は無事に試合に復帰した)反則を犯した選手は10分間の退場となり、試合の最後までウーマンダウンの戦いを強いられた日大中高。ここからは、全国大会の東京成徳大中高vs横浜東高の試合での3マンダウンの以上の劇的な8分間に突入する。
ウーマンアップとなった横浜東はそれまで作れなかったギャップを見いだしてパワープレーで日大中高ディフェンスを削っていく。耐える日大中高。しかし、こぼれ球に鋭く反応したのは又もや横浜東‘71番。こぼれ球をスクープ、ランシューを決めて 8対6 とする。ドローも五分となり日大中高への圧力を強める横浜東。それでも耐える日大中高。しかし、ゴール前混戦でスクープしたボールをゴーリー股間を抜いてねじ込んだのは又もや横浜東71番だった。8対7 と1点差となったのが4Q 7分。そこからの3分間はスタンドからの視線をくぎ付けにするプレーの連続だった。
そんな劣勢下でもドローで支える日大中高77番。ベンチも一体となりボールを回し時間が過ぎゆく。前掛かりになる横浜東、その隙に日大中高6番ゴール前でフリー取ってショットを決めると、続き直後のドローから追加点で追い詰められた処から差を広げる底力を見せる。残り90秒で10対7 勝利は日大中高にもたらされるという雰囲気が流れ始めた中、一人前を向き続ける選手がいた。横浜東高71番である。自らドローも取って速攻で1点をもぎ取ると更に異次元のスピードで粘る日大ディフェンスを置き去りにして追加点を挙げたのが4Q 9分30秒。しかし、次の自取りドローからのショットが枠を超えたときにはこれで終わりか、、、、、

いや、チェイスからのターン、71番に引き付けられる日大ディフェンスのギャップを付いて裏まくり仕掛け起死回生のバックハンドショットを決めたのは横浜東高29番。ついに10対10の同点に追いついたのは4Q 9分57秒。ドキドキのクロスチェックをクリアするとスタンドの応援も絶頂に達した。

4Q 2対5 トータル 10対10

★延長 サドゥンヴィクトリー

追いついた横浜東の勢いに、追いつかれまだウーマンダウンが続く日大中高はさしものディフェンスの集中力が途切れ、開始早々のドローを横浜東が制すると、最後は4Qで倒された82番が正面から豪快にショットを打ち込み41分の濃密で、悲喜こもごものドラマは幕を閉じた。

試合後、日大中高の主力選手が言った「なぜ負けたか、わからない。」確かに、10分間のウーマンダウンは有ったがその間に2点を奪っている。ボール回しにも自信はあったはずだ。しかし横浜東高はそれを超えた。いやこの試合に限って言えば一人で8点を取った横浜東高71番のひたすら前を向き続けた気持が越えさせたのだと思わせられた。

試合が終わり、横浜東高の監督にお話が聞けたのは30分経ってからだろうか?「準備を万全にして臨んだ試合、監督としても少し心理的にゆとりを持ちすぎていたかもしれない。」「正直、この試合は4Qに入っても勝てる気持ちになれなかった。東高得意の攻撃の機会が少なかったから。それを打開する術が中々見つからないまま時が過ぎた。」と、、、、、、

しかし、最後に「そんな中で決してあきらめてないヤツがいたんです。最後の2分になっても、30秒になってもベンチに向けるまなざしには、‘任せてください’“絶対決めますから‘という気持ちがこもっていました」「彼女は最後の瞬間まで笑顔を無くさなかった」と言われた。

スポーツを古臭い精神論で語るのは好きではないが、確かな練習に裏付けられた力を持つ者が発っする「絶対に負けない。何とかする。」という意思の力の凄さを示す試合となった。今季世界のラクロスでも同じようなシーンを見ることが多かった。例えばアメリカNCAAチャンピオンシップ女子準決勝戦のノースカロライナ大学 vs ノースウエスタン大学では、今期無敗、有利とされたランキング1位のノースカロライナに対してランキング4位のノースウエスタンが出色の出来栄えを見せ、3Q終了時点で6対13とノースカロライナを圧倒した。しかし、4Qノースカロライナの反撃は圧巻だった。終わってみれば4Q 9対1 トータル15対14で勝利をものにした。これは外から見ているとベンチからも何とかできたのではないか?とか3Qまでに体力も削られたのではないか?とか言えるかもしれないが、やはりノースウエスタンにとっては「何故負けたのかわからない」ものだっただろう。そしてノースカロライナには不屈の精神をもった選手がいたという事のように見えた。「あきらめない気持ち」是非これから始まる日本の大学やクラブのリーグ戦でも見たいものだ。

余談

試合後、審判にもお話を聞く機会があった。「あのレッドカードを出す瞬間までに相当悩んだ(やはり高校生に対し10分間の退場はゲームに与える影響も大きいと)し、話し合いもした」(実際2分ぐらいは話し合っておられた気がする)。「しかし、倒れ方が大けがにも繋がるかもしれない危険な形だったので、レッドカードを出さざるを得なかった。」「恣意的な物とか、悪意があったからだとは全く判断をしていない。」「なので、反則となり退場した選手にも次の試合では、さらに巧いディフェンスで(抜かれないような)戦って欲しい。」と伝えて欲しいと言われた。是非、その応援に応えて欲しいと思う。

余りにも劇的だった準決勝2試合。試合の行方は、一つは「選手の自主的な判断力」であり、もう一つは「貫き通す強い意志」だった。次に相まみえるのはこの修羅場を潜り抜けた2チームの、文字通り決戦となる。お互いにすべてを見せ合い、全てを知り合ったチームの対戦は、意外に小さなミスも起こさないという基本的な部分で決まるかもしれない。何が起こるか、春高ラクロス決勝戦。「決戦は土曜日」。。。「ラクロスを ドンドン好きになってくる 強大な力が生まれてる」

やっぱり ラクロスって最高

こぶ平

関連記事