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【ラクロスコラム】#17 ラクロスを通して世界と繋がる|SELL代表 柴田 陽子

昨今、多くの企業で需要が高まっていると言われているのが「グローバル人材」です。日本政府はこのグローバル人材を「日本人としてのアイデンティティーや日本の文化に対する深い理解を前提として、豊かな語学力・コミュニケーション能力、主体性・積極性、異文化理解の精神等を身に付けてさまざまな分野で活躍できる人材」と定義づけています。

グローバル人材の需要が年々高まっている背景には、海外に製造拠点を設けたり、海外マーケットの開拓に乗り出したりする企業が増えていることが深く関係しています。そしてここ数十年で世界的に起きた2つの変化が大きな起因となり、こういった海外志向はさらに強まってきました。1つ目の変化は、1990年初頭のソ連崩壊により資本主義のもとで規制緩和や自由競争が一気に加速したことです。これにより人・物・金が国や地域を越えて自由に行き来するようになり、昨今のグローバル化を加速させるきっかけとなりました。2つ目は、技術の劇的進歩です。1995年のIT革命以降、情報通信技術は止まることなく発展を続けており、ここ20年で輸送や通信にかかるコストは著しく低下しました。今ではインターネットを活用した情報交換にはほとんどコストがかかりませんし、むしろ活用しきれないほど膨大な量の情報がネット上に散在しています。ラクロスだけで見ても、10年前はなかなか見つけることができなかった海外のプレー動画などを、今ではYouTubeやInstagramで日常的に視聴することが可能です。こういった時代背景に伴い、ここ数十年で国や地域を越えたビジネスが容易になり、それらの変化に対応できるグローバル人材のニーズが高まってきているというわけです。

日本はこのグローバル化の流れにおいて、その他多くの先進国よりも遅れをとっていると言われています。スイスの有力ビジネススクールIMDが2020年6月16日に発表した最新の世界競争力ランキングでは、日本は昨年の30位からさらに順位を落とし、34位という過去最低位を更新しました。この順位は毎年63カ国・地域を対象に行われる、各国政府や世界銀行の統計データおよび経営者へのアンケート調査を基に算出されています。1位には2年連続でシンガポールが選ばれており、その健全な財政や雇用、企業の高い生産性などが評価されています。淡路島ほどの面積しかない東南アジアの都市国家が、現在世界で最も勢いのある国家とされているのです。しかし、実は日本にも同ランキングで1989年から4年連続で世界1位を記録した過去があります。そこからいかに現在の順位まで下降の一途をたどったのか、30年間の順位推移は下図の通りです。

この通り、日本の国際競争力は1990年代以降のグローバル化の進化と反比例する形で低下している傾向にあります。しかし、世界経済フォーラム(WEF)が昨年10月に発表した「世界競争力報告」の最新版で日本は141か国中6位と、評価基準によりその低下度合の見解は様々です。とはいえ、こちらの調査でもシンガポールは1位、香港も両ランキングで5位以内となっており、日本がアジアの隣国に比べ一時ほどの勢いがないことは確かと言えるでしょう。

そのような厳しい時代の中で、いま日本企業において求められる「グローバル人材」とはどのような人なのか。2012年6月に発表された、国家戦略室・グローバル人材育成推進会議の「グローバル人材育成戦略」では、グローバル人材の概念が次の3要素に整理されています。

・要素1:語学力・コミュニケーション能力
・要素2:主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感
・要素3:異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー

「グローバル人材」というと、多くの人はどうしても真っ先に“外国語が堪能”というイメージを持つかと思います。しかしこの指標では、語学力だけでなく、それに加えて幅広い能力も必要だということが示されています。また、この「グローバル人材育成戦略」は、従来のトップ層だけではなく、より幅広い層においても多数のグローバル人材の育成を目指すために定められたものです。つまり、「グローバル人材」とは、これからは多くの人に関係することであり、「自分は該当しないから関係ない」などと言っていられる時代はもう終わりが近づいていることを認識しなければなりません。逆に言えば、現時点で語学ができないからグローバル人材になれないかというと決してそうではありませんし、そもそも要素1の語学的能力と要素2や要素3は非常に密に関係しているものだと私は思っています。


前述したとおり、これから求められるグローバル人材は語学ができるだけでは不十分ですが、変わらずそれが一つの条件ではあります。特に英語はビジネスの公用語として、今後使用する場面は更に増えていくことが予想されます。日本でも今年、小学校5年生からであった英語教育が小学校3年生からの開始に変わるなど、より早い段階から英語に親しんでいくことに国としても取り組んでいます。また、eラーニングサービスの企画開発・運用などを手掛ける株式会社イー・ラーニング研究所が実施した「年末年始の子どもの習い事アンケート」では、2020年に親が子どもにさせたい習い事の1位が「英会話スクール」だったそうです。

このように日本の中での英語の重要性は上がってきていますが、世界的に見ると日本人の英語レベルは依然として非常に厳しい状況にあります。海外留学や語学教育事業などを世界110カ国以上で展開するイー・エフ・エデュケーション・ファースト(EF)が毎年発表している英語能力のベンチマーク「EF EPI英語能力指数」の2019年版によると、日本の英語能力指数は世界100カ国・地域のうち53位で、この順位は9年連続で下降しています。では他国と比較してみましょう。下図はEF EPIランキングに従って英語能力が色分けされた地図で、青は「非常に高い」、濃緑は「高い」、黄緑は「標準的」、黄色は「低い」、オレンジは「非常に低い」を指しています。

日本が4年連続で英語能力が「低い」と位置づけられている一方で、5段階の能力レベルの最高位である「非常に高い英語能力」とされた国は、昨年より2カ国増えて過去最高の14カ国となっており、世界全体としての英語能力は上昇傾向にあることが示されました。

私がナイキで通訳として働いていた頃、社長交代のタイミングで通訳チームは解体されることになるという噂が飛び交ったことがあります。実はこれは、日本以外のどの現地法人にも通訳チームなど存在せず、英語が母国語でない国でも当たり前に英語で会議するのになぜ日本だけそれができないのか、という社長の疑問が発端の話でした。そもそも通訳がいるから自ら英語を学ぼうとしないのだという社長の主張には、急な解雇の危機に晒されながらも本当にその通りだなと納得してしまう部分がありました。結局、そんなことを下準備なく進めてしまうと業務が成り立たないという理由から通訳チームは命拾いしたわけですが、外資系企業のナイキですら社員の半数近くは英語力に自信がなく、グローバルな舞台でも通訳を必要としているのが日本の職場の現状です。その他、少数精鋭の外資であるWWEでも英語で仕事ができたのは5人中3人だけ。前職の広告代理店の場合は職業柄もありますが、IOCなどとも関わる仕事であったにも関わらず、十分な英語力を持っているのは同部署の10人中2人だけでした。

前述した「グローバル人材育成戦略」の中で、語学力のレベルに関しては下記の5段階に分けられています。

① 海外旅行会話レベル
② 日常生活会話レベル
③ 業務上の文書・会話レベル
④ 二者間折衝・交渉レベル
⑤ 多数者間折衝・交渉レベル

ここで重要なのは、グローバル人材=④・⑤のレベルが必須ではないということです。もちろんこのレベルで語学を扱えることは大きな武器となりますし、ビジネスの最高峰では必ず必要な能力かもしれません。しかしその一方で、ほとんどの仕事で求められるグローバル人材の語学レベルがそこまで高いわけではないのです。それは私が働いてきた会社にも言えることで、業務において①・②レベルの英語力しか求められていない場面も多くありました。問題なのは、そのレベルの英語すら話そうとしない人が非常にたくさん見受けられたということです。ナイキのときは、「この会議絶対に通訳がいなくても分かるはず」というような会議にも、いわば保険として招集されていました。この姿勢こそ、グローバル人材に求められている他の要素が足りていない代表的な例なのです。日本人によく見られるこの「話そうとしない姿勢」は、グローバルで活躍するためのたくさんの可能性を閉ざしてしまっていると私は思います。

私は帰国子女なので、多くの社会人がいま感じているであろう“英語を大人になってから学ぶこと”の苦労については正直共感できない部分が多いです。しかし、だからといって英語を仕事上の武器にできるまでの道のりが簡単であったかと言われれば、決してそうではありません。小学生で英語を学ぶのは、たしかに大人よりも習得スピードが早いのかもしれませんが、話せないところから始めるという状況自体は大人でも子どもでも変わらないことです。私の場合は英語だけでなく、日本に帰国後、今度は日本語のレベルが周りよりも明らかに劣っていることに気づき、また同じような経験をしました。ただ、いつもやらないとどうしようもない状況に陥っていたので、努力するしかなかったというだけなのです。中学校の頃、「英語が喋れるからもういい」と日本語を諦めていたら、このように日本語でコラムを書ける日は一生来なかったと思います。これは経験上の感覚値にしかすぎませんが、帰国子女の中でも大人になってからの英語力には大きな差があり、それは「海外にいたときに話せないなりに積極的に会話をしようとしたか」と、「帰ってきてからどれだけ触れる機会を増やそうと努力したか」の2つの違いから生じるものだと思っています。帰国子女であろうが、留学経験があろうが、今まで日本国内で全く英語に触れてきてなかろうが、結局そこからどう変化するかは自分の姿勢次第だということです。

語学を学ぶ上で最初に立ちはだかるのは、「できない」という壁です。そこでその壁を超える人と超えない人を分けるのは、「できないけど話してみる」か「できないから話さない」か、という姿勢の違いだと思っています。これはラクロスでも全く一緒で、難しい技であればあるほど、習得までに時間がかかります。「できないからやめよう」と数回で諦めるか、「できないけどやってみる」を繰り返すか。分野が違うだけで、問われている姿勢は同じなのです。

私は、日本ラクロス一の有名人・山田幸代さんの凄さは、英語がそこまで得意でない中でも、過去誰もやったことがない海外挑戦に踏み切り、さらにオーストラリア代表になるまで10年近くもの間それをやり続けた、その姿勢にあると思っています。もちろんラクロスのスキルも素晴らしいですが、ラクロスが上手ければ誰でも成功するというわけではなく、「できなくてもやってみる」を英語においてもラクロスにおいても誰よりも続けてきた結果が、彼女の今なのかなと思っています。そこで築いた人間関係を生かして、World Crosseでは世界最高峰のプレイヤーを多数日本に招待する夢のような機会を毎年創ってくれています。こういった機会が増え、日本のラクロス選手と海外のトップ選手との距離も最近一気に近づいた気がします。ここ数年では、山田さんのように海外に挑戦の場を求める選手も増え、女子のWPLLや男子のMLL、ボックスラクロスリーグのような海外トップリーグに挑戦する選手も続々と出てきました。また、選手以外でも海外へ目を向けた動きはあります。現日本代表のGM補佐を務める鷹羽は、元々は青学の主力選手ですが、同時に協会の国際部で学生時代から活躍をしていた存在でもあります。その延長線上で、社会人になってから仕事を休職、自ら志願してアメリカのラクロス協会に半年間インターンに行き、その後に現役職に就いた経緯があります。日本で唯一、その貴重な機会が彼女に与えられたのは、英語が話せたからという理由だけではないことはもう言うまでもないと思います。このLacrosse Plusの編集長も現在はオーストラリア在住ですが、元々は生まれも育ちも東北です。今となっては英語がメインの生活を送っているかもしれませんが、彼女も決して最初から英語がペラペラでオーストラリアに行ったわけでもないですし、いつだって日本に帰ってくることもできた中でも向こうでの生活を築けた裏には、彼女が持ち合わせている別の要素が大きく関係していると思います。これらの例の場合、要素2(主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感)のいずれかを高いレベルで保有していることが必ず見受けられ、それが結果的には要素1の語学における成長にも繋がっているように感じます。

また、ラクロスにおいて我々がアメリカやオーストラリアに学びを求めたように、アジアの他の国々は日本にそれらを求めています。青学の練習にも香港から単身武者修行に来る子もいますし、昨年韓国などは代表チームで来日していました。また、台湾でラクロスフェスティバルを開催した慶應女子や、香港オープンへの参加をきっかけに韓国遠征も行ったFOGO、昨年チームとして台湾遠征を試みた琉球大学など、日本から積極的にアジアに飛び出しているチームも増えています。全国強化指定選手団で参加した昨年のASPAC(アジアパシフィック選手権大会)では、同じフロアに宿泊していた中国選手が「私たちはとても日本を見本にしている」と英語で話しかけてきてくれ、それを機に「だからこそ日本を代表する者として然るべき行動を心がけよう」と再度チームで気を引き締めました。これらの例の場合は、3つ目の要素である異文化理解や日本人としてのアイデンティティーの理解も深く関係しています。自ら異文化環境に飛び込んだ彼らの行動は間違いなくグローバル人材に求められるものですが、またその全員が英語を話せるかというと、決してそういうわけではないと思います。例え要素1の語学が伴っていなくても、要素2や要素3で自らそういったグローバル環境に飛び込む勇気があってこそ、グローバル人材は育っていきます。逆に言えば、英語のテストでどれだけ点がとれても、この姿勢が伴っていなければ現代に求められているグローバル人材にはなれないでしょう。

このように、ラクロスは自分自身の行動力さえあれば、世界が比較的近くで感じられる競技です。国際部やWorld Crosseのスタッフから始めるのも一つですし、日本に遠征するアジアチームと交流する機会をつくるのも一つ、また自分から他の国に飛び出すのも一つです。これから社会で求められるグローバル人材になるために、もちろん語学力ゼロでは絶対に無理ですが、語学学校に行くよりも遥かに価値のあるリアルな経験は、ラクロスを通してたくさんできると思います。大事なのはその経験を自ら求める姿勢があるか。もしあなたが、「やってみたいけど英語が話せないから」と諦めていることがあるなら、今年は「英語が話せなくてもやってみる」の始まりの年にしてみてください。グローバル人材に一番求められるのはその姿勢であり、ラクロスはその姿勢さえあればすぐそこに世界がある、この上ない環境です。

SELL代表
柴田陽子

▶︎Profile
柴田陽子(1987年生まれ、兵庫県出身、神奈川県在住)
【学歴】
・大阪教育大学教育学部附属高等学校池田校舎卒業
・慶應義塾大学総合政策学部総合政策学科卒業
【社会人歴】
・アクセンチュア(SAPを専門に取り扱う部門でクライアント企業へのSAPシステムの導入プロジェクトに携わる)
・リクルート(リクルート住宅部門注文住宅グループ神奈川チームにて住宅雑誌「神奈川の注文住宅」の営業)
・WWE(米国最大のプロレス団体の日本法人にてマーケティング、ライセンシング、セールスなどをサポート)
・ナイキジャパン(通訳チームの一員としてスポーツマーケティング、ロジスティックス、テック、CSRなどの視察や会議の通訳および資料翻訳を担当)
・電通(オリパラ局の一員として東京大会の各競技のスポーツプレゼンテーションを企画。チームの国際リエゾンとして豪州のパートナー企業との交渉も担当)
・Second Era Leaders of Lacrosse(代表として団体創立に携わり現在に至る)
【ラクロス選手歴】
(所属チーム)
・慶応義塾大学女子ラクロス部(2005年~2008年)
・FUSION(2009年~2013年)※2010年~2012年主将、2013年GM
・CHEL(2014年~2016年)※2015年主将、2016年副将
(選抜チーム)
・U20関東選抜(2005年)
・U22日本代表(2008年)
・日本代表(2009年~2011年 )※2009年W杯参加
【ラクロスコーチ歴】
(所属チーム)
・慶応義塾大学女子ラクロス部AC(2009年)
・青山学院大学女子ラクロス部HC(2010年~現在)
(選抜チーム)
・U20関東選抜AC(2012年)
・U20関東選抜HC(2013年)
・U19日本代表AC(2015年)
・日本代表AC(2017年)
・全国強化指定選手団AC(2019年)
・日本代表GM兼HC(2020年~現在)
【主なラクロスタイトル】
(選手)
・関東学生リーグベスト12(2007年)
・東日本クラブリーグ優勝(2011年・2012年 FUSION、2014年 CHEL)
・全国クラブ選手権優勝(2011年 FUSION)
・全国クラブ選手権準優勝(2014年 CHEL)
・全日本選手権準優勝(2011年 FUSION)
・全日本選手権3位(2014年 CHEL)
(コーチ)
・全国最優秀指導者賞(2018年)




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