【ラクロスコラム】#23 計算を超えるもの|SELL代表 柴田 陽子

このコラムもついに残り3回となりました。

私のコラムを初回から読んでいただくと、最初の3回だけが比較的自身の経験に重きを置いた内容となっていることに気づくと思います。5回目から22回目までの間は、様々な著名人の著書や研究結果に基づいた内容と自身の経験を交えて、感情よりもロジカルな話を展開してきました。なぜ最初の3回だけが論理的根拠の紹介をしなかったかというと、私が真っ先に伝えたいと思ったことが、言葉では説明しづらいけどラクロスの経験を通してすごく重要だと感じたことが多かったからです。残り3回は、最初の3回同様、証明済みのロジックよりも15年のラクロスの現場の経験で感じてきたこと、とりわけ今回は、「ロジックを超える大切なもの」についてお話したいと思います。

「ロジック」とは、つまり論理です。私は新卒でコンサル業界という非常にロジックを重んじる業界を選びました。入社した会社の筆記試験では、「あなたはアジアの特定の国に携帯電話ビジネスで進出したいと考えています。タイ、ベトナム、インドネシアのうちどの国に進出するか決めてください」というような一風変わった試験問題が出たことを今でも覚えています。この問いに答えるとき、リサーチをしない限りはある国を選んで結論づける根拠がありません。就活でこういったことを聞かれた際に大事なのはロジカルに結論を導きだせる思考プロセスがあるかです。なので、例えばこの問いであれば、3か国の携帯電話の普及率、競合企業の多さ、日本企業の進出度合の3軸から判断する、などという選定のプロセスの考え方を書けば、急に「タイに進出します。なぜなら日本企業が成功しているからです。」という主観的結論を書くよりも遥かに読み手は納得がいくはずです。このようにいくつかの根拠をもとに結論を導く考え方は、”So What?/Why So?”といい、ロジカルシンキングの基礎的なスキルのひとつです。私はアクセンチュア入社前の課題図書で「ロジカルシンキング(論理的思考)」という本を配布され、そこで初めてSo What?/Why So?やMECEというロジカルシンキングの基礎をきちんと学びました。(もう少し詳しく知りたい方はこちらをご一読ください→https://to-manabi.com/logical-thinking

結局私はコンサルという仕事を1年しかやりませんでしたが、ロジカルシンキングの考え方はその後の営業でもマーケティングでも通訳でもイベントプロデュース業でも非常に役立ちました。なぜならどの仕事においても人と話すとき、プレゼンの資料をつくるとき、「根拠に基づいて説得力ある内容を組み立てる」ことは必須だったからです。ただ、この能力がどこで一番役に立ち、かつ一番磨かれたかと問われれば、私は間違いなくそれはラクロスのコーチ業だと答えると思います。

私はコーチとしても非常にデータを重んじるタイプです。これはスポーツ業界では一般的に「アナライジング」と言われる分野ですが、アナライザーが数字を導き出す人であるとすれば、コーチはその数字から方針を立てる人です。ラクロスのようなマイナースポーツの場合、近年少しずつアナライザーという役職も増えてきたものの、幹部やコーチがこの役割も担っているというチームがまだまだ大多数だと思います。

青学では、計画を立てるときも計画を修正するときも、必ず数字を以て分析を行います。幹部は日常的にそれをする習慣がついていますし、全体mtgなどでも数字を分析する機会も作っています。もちろん「これがうまくできた」とか「ここはうまくいかなかった」という感覚も重要ですが、数字の根拠なくコロコロ方針を変えるのは賢くないと思っています。

実際の事例として、2018年に関東の決勝に行ったシーズンをあげて説明します。このシーズンはフルフィールドライドの戦術に春先から8割近くの時間を割いていましたが、実は5月の中旬頃までは全く試合に勝てていませんでした。そこで結果のみから勝てなかった理由を考えたとき、多くの選手は8割の時間をかけていた「ライドがうまく行っていない」という感覚的結論に至ってしまうため、焦りから敗戦が続くことに対しての不安も多くあがってきました。しかし、実際にデータを見直すと下図のように、実は半分以上という驚異的な数字でライドは成功していたのです。

この数字が選手の歩んできた道への不安を軽減し、最大の味方となってくれるのです。ではそれでもなぜ試合は大敗していたのか?必ずどこかの数字に問題があると思い、様々な側面から更なるデータ分析を進めてみました。すると、クリアーの成功率が例年に比べて極端に低いことが発覚したのです。つまり、ライドで奪った回数以上に、そのあとのクリアーで奪われてしまっていた結果、ライドで奪って相手が戻る前に素早く点をとる、というやりたい戦術を実行できていなかったことが明らかになりました。

このデータに基づき、この次の1か月半はライドではなく、ライドで奪ったあとのクリアー局面に最も時間をかけました。それは方針が変わったわけではなく、フルフィールドライドをベースとした戦い方で勝利をするために「いま一番注力すべき部分」を数字に基づき論理的に分析した結果でした。クリアーが改善されはじめると、一気にライド戦術の魅力が開花し、その次の1か月半を青学は5勝1敗で乗り切ります。クリアー局面だけを見ても、ここに相当な時間をかけただけあり、成功率は下図のとおり25%近く上昇しました。

この後、夏合宿前の7月に最後のテストマッチとして位置付けていた1部強豪チームとの2連戦も手ごたえのある内容で終えることができ、数値的にも各局面で「この数値を超えていれば勝てる」と睨んでいた数値をほぼ計算通りに達成できているという最高の形で夏を迎えることができました。

こういった数値目標に向かって途中で分析をして方針を修正していきながら計画的に取り組むことは仕事においても同じく有効的です。例えば年間で4000万円を売り上げたいという目標があるとき、それを単純に四半期で分けると各1000万円ずつの売上が必要です。しかし第一四半期が800万円しか売上をつくれなかったとした場合、たしかに自分自身の「ここが足りなかった」という感覚の振り返りももちろん大事ではあります。しかし数値を見た時、あるエリアの企業の成約率は8割であるのに対して、別のエリアは4割だとわかれば、なぜその違いが生じているか、エリアごとにどのように需要が違いアプローチを変えるべきかなどを考えるきっかけになります。また、小口契約を積み上げて800万をつくれたものの、数百万円の大口契約が少ないことがわかれば、第二四半期はそこに時間をかけるという方向性が定まります。こういったことを何も考えずになんとなく毎日を頑張るだけでは、なかなか数値目標に対して効率的に仕事を進めることができません。先日、まだ比較的若手の元教え子が、仕事の目標の立て方が部署で一番うまいと上司に褒められたという話をしてくれました。彼女曰く、幹部として年間計画を立て、数値目標に向かって根拠ある計画を立てていた頃とやっている作業は同じだそうです。

このように、ロジカルシンキングで数値目標に向かって計画を立てることは、ラクロスにおいても仕事においても必要なことです。ただ、この年のリーグ戦、青学は4月に10点差以上をつけられて大敗した相手に勝つこととなります。それだけでなく、優勝候補と言われていたチームとも大接戦を制し、さらに、4月に2対14で負けた慶應を決勝という大舞台で延長戦まで追い込みました。それを可能としたのは、計算通りに夏を迎えられたこと以上に、夏の数か月の間に、もっと言えばリーグの1試合ごとに、急激な成長を繰り返したことが大きな要因だと思っています。コーチである私がここまでの快進撃を見込んでいたかといえば、この夏の激的成長は私の想像を遥かに超えるものでした。良い意味で、「計算外」の成功だったのです。

「計算を超えるもの」

この年の青学が史上最高成績を収められた最大の理由を問われるなら、私はこう答えるかもしれません。

リーグの試合には毎回、いわば台本があります。4Qを通じての物語。相手の封じ方。自分たちの良さの出し方。スカウティング班がたたき出してくれた大量の数字に基づいて、1試合ずつ別の物語をつくります。私は舞台監督、選手は演者、みんなで最高のショーをつくるために日々色々なシーンのそれぞれの動きを確認して万全の準備を期して本番を迎えます。私はブロードウェイのミュージカルが大好きなのですが、鳥肌が立つようなパフォーマンスに決まってあるものが「台本にはない魅力」だと思っています。どれだけ台本が面白くても、本当に人の心を動かすのは演者の魂のこもったパフォーマンスなのです。それが本番の生舞台でしか感じられない「計算を超えるもの」です。

この年の青学の試合が舞台であるとしたら、毎舞台が「計算を超える」パフォーマンスの連続でした。スポーツと演劇やミュージカルの舞台が違うのは、スポーツは結末が誰にも分らないということ。結末は私の台本にも書かれていないのです。だからこそドラマがあり、だからこそ面白い。最後のページが白紙の台本を書き、白紙のページに最高の結末を選手が書けるよう準備を進めるのは私の仕事ですが、その結末を書き、人々を感動させることができるのは選手である演者のパフォーマンスあってのこと。どんなに秀逸な台本でもその「計算を超えるもの」を最初から入れ込むことはできないのです。コーチができることは、みんなが計算を超えるブレイクスルーを果たせるような環境を準備してあげること。秀逸な台本あっての、その先の計算を超える感動なのです。だからそのために、私は計算して自分にできる最高の準備をします。そして、その「計算を超えるもの」をフィールド上で目の当たりにしたとき、私は教科書のロジックでは説明できない感動を覚えます。だから、ラクロスを辞められない。もう演者にはなれなくても、その瞬間の一部になりたいと思い、何度も何度も、その光景に病みつきになります。

今年は誰にも計算できない状況が続いています。しかしその中でも、「計算を超えるもの」は生み出せると私は思っています。「ラクロスを3か月やっていなかったからラクロスのレベルが下がる」というだけの2020年ではないずです。私もこんなにも一回一回の練習や仲間との時間が尊いと思えたのは久々で、いまのチームと創る舞台への想いはむしろこの3ヶ月で強くなりました。ラクロスを3か月やっていなかった逆境をはねのけた先には、今年しか書けない台本があり、今年だけのドラマがあるはずです。どのような台本を書くか、そしてそれを最高の舞台にできるかはその舞台をつくるチームのメンバー次第です。監督も主役も脇役も、誰一人として欠けてはならない。全員がコミットした先にしか最高の舞台は存在しません。

いつもより3か月短い準備期間でただ準備不足の舞台をやるよりも、いつもとは違う今年だけの台本で舞台をつくるほうがワクワクしますよね。その先で、ロジックでは説明できない台本にはない感動と出会えることが、ラクロスの試合の本当の醍醐味だと思います。
こんな状況でも、まだ仲間と舞台に立てること。その喜びを噛み締めて、2020年の試合の舞台をどうか最高のモノにして欲しいと思います。

SELL代表
柴田陽子

▶︎Profile
柴田陽子(1987年生まれ、兵庫県出身、神奈川県在住)
【学歴】
・大阪教育大学教育学部附属高等学校池田校舎卒業
・慶應義塾大学総合政策学部総合政策学科卒業
【社会人歴】
・アクセンチュア(SAPを専門に取り扱う部門でクライアント企業へのSAPシステムの導入プロジェクトに携わる)
・リクルート(リクルート住宅部門注文住宅グループ神奈川チームにて住宅雑誌「神奈川の注文住宅」の営業)
・WWE(米国最大のプロレス団体の日本法人にてマーケティング、ライセンシング、セールスなどをサポート)
・ナイキジャパン(通訳チームの一員としてスポーツマーケティング、ロジスティックス、テック、CSRなどの視察や会議の通訳および資料翻訳を担当)
・電通(オリパラ局の一員として東京大会の各競技のスポーツプレゼンテーションを企画。チームの国際リエゾンとして豪州のパートナー企業との交渉も担当)
・Second Era Leaders of Lacrosse(代表として団体創立に携わり現在に至る)
【ラクロス選手歴】
(所属チーム)
・慶応義塾大学女子ラクロス部(2005年~2008年)
・FUSION(2009年~2013年)※2010年~2012年主将、2013年GM
・CHEL(2014年~2016年)※2015年主将、2016年副将
(選抜チーム)
・U20関東選抜(2005年)
・U22日本代表(2008年)
・日本代表(2009年~2011年 )※2009年W杯参加
【ラクロスコーチ歴】
(所属チーム)
・慶応義塾大学女子ラクロス部AC(2009年)
・青山学院大学女子ラクロス部HC(2010年~現在)
(選抜チーム)
・U20関東選抜AC(2012年)
・U20関東選抜HC(2013年)
・U19日本代表AC(2015年)
・日本代表AC(2017年)
・全国強化指定選手団AC(2019年)
・日本代表GM兼HC(2020年~現在)
【主なラクロスタイトル】
(選手)
・関東学生リーグベスト12(2007年)
・東日本クラブリーグ優勝(2011年・2012年 FUSION、2014年 CHEL)
・全国クラブ選手権優勝(2011年 FUSION)
・全国クラブ選手権準優勝(2014年 CHEL)
・全日本選手権準優勝(2011年 FUSION)
・全日本選手権3位(2014年 CHEL)
(コーチ)
・全国最優秀指導者賞(2018年)




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