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【ラクロスコラム】#24 成功を測る「ものさし」|SELL代表 柴田 陽子

皆さんは誰かを見て、「この人は成功している」と感じたことがあるでしょうか?
多くの人はきっと一度はそんな経験をしたことがあるのではないかと思います。

では、我々は何を以て「成功している」と思うのでしょうか?
皆さんにとっての「成功の定義」は何ですか?
どのようなものさしで「成功」を測っているのでしょうか?

「米国大学バスケット史上最高のコーチ」と言われる名将にジョン・ウッデンという方がいます。彼は合計すると40年以上、いくつかの高校や大学でコーチを務めていました。その長年の経歴の中で最も有名なのは、UCLAを1964年から1975年までの12シーズン中、10度も全米王者に導いたことです。この結果は偉業として今も語り継がれています。

さて、ウッデン氏は結果としてこのような偉業を成し遂げていますが、彼の教え子たちが口を揃えて言うのは、「コーチからは、プレーの仕方よりも人生についてより多くのことを学んだ」ということです。実際にウッデン氏本人も、大事なのは試合の勝ち負けではない、と何度も公言しています。さらには、「勝つ」ことと「成功する」ことは別物であるとし、勝ったときでも相手の立ち振る舞いに負けたように感じることもあったし、逆に負けたときでも自チームの立ち振る舞いに勝ったように感じることもあったと述べています。そんな彼は、自身の考える“成功の定義”について下記のような名言を残しています。

「成功とは、名誉や地位を得ることではなく、自分の持っている能力を最大限に発揮する努力を積み重ねて得られる満足感である」

これはつまり、人からの評価ではなく、あなたが「今できるベスト」を出せていることが成功だという定義付けなのです。彼はこの考えに基づき、成功哲学を端的に表した「成功のピラミッド」で、成功に必要な要素の考え方についてまとめています。下図がその内容です。

このピラミッドでは、成功するために必要な要素が段階ごとに分けられており、下段の端ほど最も基礎とされているものです。見ての通り、スポーツのコーチであるウッデン氏が成功において最重要視したのは、技術や闘争心ではなく、ごく普通のライフスキルだということが分かります。つまり、こういった基礎的な部分が人としてできていないと、どれだけ上に技術が乗っていても、土台がなくては大きなピラミッドにはなり得ないということです。これはスポーツだけではなくどの分野にも言えることであり、だからこそ彼の教え子たちは皆、彼から人生についての多くを学んだと感じているのでしょう。

私はUCLAのホームタウンで幼少期を過ごし、当時バスケをやっていたということもあって、ウッデン氏のことは小学生の頃から知っていました。しかし、彼の考え方が身に染みて分かるようになったのは、大人になってラクロスのコーチを始めてからです。ラクロス部を通して学生に何を学んでほしいのか、考えれば考えるほどウッデン氏の言っていることに共感していく自分がいました。試合に勝っても負けても、試合のメンバーに入れても入れなくても、やれることは全てやったと言える選手であってほしいと心から思っていますし、そのために私が選手に伝えたい大事なライフスキルは、ラクロスの技術以外に山ほどあります。そして、気づけば12年もコーチを続けている中で、学生のみんなにとってのラクロス部での「成功」を考える機会とともに、私自身の人生においての「成功」についても何度も考え直す機会をもらいました。

私の考える「成功」は社会人になった当初と今では大きく変わりました。社会人になりたての頃は、「成功」を目に見える形で結果として出すことが必要だと思っていました。つまり「企業名」「役職」「給料」、そういったことが成功していると思われるためには必要だと、声を大にしては言わずともどこかで感じている部分があったのです。しかし、どれだけ自分を偽ろうとしても、次第に私は企業名にも役職にも給料にも興味がないことに気づいていきました。私は土日に割いている時間や、リーグ期においては練習だけでなくMTGや準備などにかける時間を考えると、青学と仕事に割いている時間に大差がありません。ただもちろん、同じ時間を割いていても、いただいているお給料には大きな差があります。しかし、どちらをより情熱を持って取り組んでいたかと訊かれれば、その答えは明白です。

「お金をもらわなくてもやりたいことか」

30歳を過ぎてからのここ数年、色々なキャリアや人生の選択肢と真剣に向き合おうとするとき、よくこの問いを基準にするようになりました。

日本代表のGMやHCをやる理由。
青学のコーチを続ける理由。
周りの大切な人の依頼や相談に惜しみなく時間を割く理由。

いずれもこの問いの答えがYESだから、例えそれがお金にならないことでもそこに莫大な時間と労力をかけます。自分がやっている仕事が「お金をもらうためだけの仕事」(以前、同義のライスワークという言葉をコラム#22で紹介しました)になってしまったとき、それがその仕事を離れるときだと思っています。しかしライフワークを考える上では「お金をもらわなくてもやりたいことか」が非常に大事です。少なくとも私にとっては、いつか人生を振り返って自身の「成功」について考えたとき、「成功のものさし」の基準は、お金をもらわなくてもやりたいことに、どれだけの時間を割いてこられたかになるのだと、最近ようやく分かってきました。

私は色々な経験をしてきたからこそ、企業名や役職や給料で自身の満足感が満たされないことを知り、一番情熱を持って、身を削ってでもやりたいことがラクロスにはあるから、それだけを続けられているのだという事実を少しずつ理解していきました。SELLやLACROSSE PLUSで新たな挑戦に踏み切ろうとしているのも、それらは全て「お金をもらわなくてもやりたい」と思えるほど「情熱」を持って取り組めることだからです。


TEDに登壇している500名以上の登壇者に向けて、あるマーケティングアナリストが実施した「成功者の条件」に関する調査では、彼らの意見をまとめたものとして、上述した「情熱」をはじめとした下記の8つのことが挙げられています。

①PASSION(情熱):お金ではなく情熱がそこにあるからやる。そうすればお金はあとからついてくる。
②WORK(勤勉):簡単に手に入れられることは何一つない。努力を積み重ねるしかないが、その過程を楽しむこと。
③GOOD(向上心):一流への近道はない。上を目指して練習あるのみ!
④FOCUS(集中):色々なことをやるのではなく、1つのことに集中する。だからそれが極められる。
⑤PUSH(求める):自分自身にもっと求める。自分をもっとできると前に押し進める。
⑥SERVE(与える):他の人に価値のあるものを与える。
⑦IDEAS(アイデア):自分のアイデアを持つこと。そのために常に多くの人と関わり、探求心を持ち、周りに目を配る事。
⑧PERSIST(忍耐):失敗しても諦めない。それを糧にして逆境を跳ね返す。

このように並べるとウッデン氏が言っていることと、実際に一般的に成功者と言われている人々が挙げる条件は類似している要素も多くあることがわかります。それだけスポーツにおいても、ビジネスにおいても、「成功の条件」とされているものは似ているのです。

さて、私が皆さんにお伝えしたいのは、あなた自身が「成功」をどのようなものさしで測るかが大事だということです。私の大好きなブロードウェイ・ミュージカルにRENTという作品があるのですが、このミュージカルの代表曲 “SEASONS OF LOVE”には、”How do you measure a year?”という歌詞が出てきます。意訳するとこれは”1年という長さをどのようなものさしで測るか”という問いです。歌詞の中では、日の出・日の入りの数、コーヒーを淹れた数や笑った数、本音で話せた数や涙を流した数、そして愛といった多くのものさしで1年を測ろう、と言っています。そしてこれはそれぞれの人生においての「成功」に関しても同じことが言えると私は考えています。

皆さんは、どのようなものさしで「成功」を測りますか?

このコラムでは成功の条件について、色々と書いてきましたが、大事なのは「成功」を決めるのは周りから見た価値や地位ではないということ。そこには必ずあなた自身のものさしの基準がなくてはならないということ。「全てやり尽くしたという幸福感に満たされている場所」が成功だとするなら、あなたは何をやり尽くしたいですか?何に情熱を注ぎ、何において惜しみない努力を捧げたいですか?それが「家族の笑顔の回数」である人もいれば「会社でNo.1になること」の人もいるかもしれません。「大切なひとと30年後も幸せといえること」である人もいれば「30年後は海外に暮らしていること」である人もいるかもしれません。皆さんにとって、お金があるときにやりたいことではなく、お金がなくてもやりたいことは何でしょうか?

成功を測るものさしの基準は人それぞれです。私は、社会人になった頃は、まだ「世間一般」というものさしの基準で自分の成功を測ろうとしていました。でもラクロスのコーチでの幸福感があったから、本業に対する疑問を抱くようになり、次第に自分のものさしの基準が分かっていきました。今はわからなくても、いつかふと自分の生き方に疑問を持ったとき、あなたの「人生の成功」のものさしについて考えてみてください。他の人と比べるのではなく、自分のものさしで自身の成功を全員が測れるようになれば、社会に出てからの皆さんはきっともっと幸せになれるのではないかと、私は信じています。

 

SELL代表
柴田陽子

▶︎Profile
柴田陽子(1987年生まれ、兵庫県出身、神奈川県在住)
【学歴】
・大阪教育大学教育学部附属高等学校池田校舎卒業
・慶應義塾大学総合政策学部総合政策学科卒業
【社会人歴】
・アクセンチュア(SAPを専門に取り扱う部門でクライアント企業へのSAPシステムの導入プロジェクトに携わる)
・リクルート(リクルート住宅部門注文住宅グループ神奈川チームにて住宅雑誌「神奈川の注文住宅」の営業)
・WWE(米国最大のプロレス団体の日本法人にてマーケティング、ライセンシング、セールスなどをサポート)
・ナイキジャパン(通訳チームの一員としてスポーツマーケティング、ロジスティックス、テック、CSRなどの視察や会議の通訳および資料翻訳を担当)
・電通(オリパラ局の一員として東京大会の各競技のスポーツプレゼンテーションを企画。チームの国際リエゾンとして豪州のパートナー企業との交渉も担当)
・Second Era Leaders of Lacrosse(代表として団体創立に携わり現在に至る)
【ラクロス選手歴】
(所属チーム)
・慶応義塾大学女子ラクロス部(2005年~2008年)
・FUSION(2009年~2013年)※2010年~2012年主将、2013年GM
・CHEL(2014年~2016年)※2015年主将、2016年副将
(選抜チーム)
・U20関東選抜(2005年)
・U22日本代表(2008年)
・日本代表(2009年~2011年 )※2009年W杯参加
【ラクロスコーチ歴】
(所属チーム)
・慶応義塾大学女子ラクロス部AC(2009年)
・青山学院大学女子ラクロス部HC(2010年~現在)
(選抜チーム)
・U20関東選抜AC(2012年)
・U20関東選抜HC(2013年)
・U19日本代表AC(2015年)
・日本代表AC(2017年)
・全国強化指定選手団AC(2019年)
・日本代表GM兼HC(2020年~現在)
【主なラクロスタイトル】
(選手)
・関東学生リーグベスト12(2007年)
・東日本クラブリーグ優勝(2011年・2012年 FUSION、2014年 CHEL)
・全国クラブ選手権優勝(2011年 FUSION)
・全国クラブ選手権準優勝(2014年 CHEL)
・全日本選手権準優勝(2011年 FUSION)
・全日本選手権3位(2014年 CHEL)
(コーチ)
・全国最優秀指導者賞(2018年)




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