【ラクロスコラム】#5 富士山を逆算する|SELL代表 柴田 陽子


「逆算」

私が学生幹部やAC陣に対し、いつも口酸っぱく使っている言葉です。

物事を進めていく際の思考方法は、大きく分けて2種類あると言われています。

「逆算思考」と「積み上げ思考」です。

「逆算思考」は、ゴール(目標)を先に想定し、そこに到達するためのステップ、その上で今やるべきことは何かを明確にしてから自身の行動につなげる思考方法。それに対し「積み上げ思考」ではゴールを先に設定せず、今できることを精一杯やり、その最終的な到達点をゴールとします。

例で考えてみましょう。
あなたが営業として、結果的に1か月で100万円の売上をあげたとします。元々100万円という目標があり、それを達成するために1か月どのように動くかを計画に落とし込み行動した結果が100万円であれば、それは「逆算思考」です。
対して、毎日とにかく少しでも多くの売上を積めるように、目の前のことを頑張った結果、気づいたらその額が100万円になっていたのなら、それが「積み上げ思考」です。

この2つの思考方法は、どちらが良い悪いというものではありません。それぞれにメリット、デメリットがあると思っています。
特にいまはこのコロナの状況下で、当初掲げていた売上目標の達成が見込めない企業も多くあると思います。
そんな中「1円でも多く」と、ゴールが見えなくてもいまできることに精一杯取り組むのは「積み上げ思考」で、このような考え方も非常に重要です。

ただ私は、今まで様々な業界・業種の仕事を経験してきた中で、「目標から逆算する」という作業ができるかできないかが、どの仕事においても結果を大きく左右することを度々実感してきました。そして、ラクロス部は「逆算思考」を身に付けるためには、この上ない環境であると思っています。

私は毎シーズン、目標設定をする時期になると、「自分たちの富士山を見つけ、その山頂までの道のりを逆算する」という例え話をします。
富士山とは、言わずとしれた日本一高い山で、簡単に登頂できるものではありません。
この話中において私が言う富士山とは、苦しんででも頂上まで登って見たい”最高の景色”のことを指します。
そしてその道のりとは、誰と、どのような道を選択して山頂を目指すか、というプロセスです。

頂上からどんな景色をみたいか。
山を誰と一緒に登りたいか。
そのために、数ある道の中のどの道を選択するか。
その道を登るために必要な道具は何か。
「富士山を逆算する」とは、ワクワクするような目標を設定し、そこへ向けて自分たちらしい計画を立てて実行していくことです。

日本中には青学と同じ「日本一」という目標を掲げているチームは多くいますが、毎年達成できなくても青学がその目標を掲げ続けるのは、夢が詰まった目標だからです。
そして、青学がその山頂を目指して選ぶ道のりは、覇者立教の道や数多くの名だたる強豪校と同じ道のりではありません。
青学の道は、青学にしか歩めない、絆や人としての成長、誰とどう歩むかを大切にした独自の道のりです。全国のチームの数の分だけ、それぞれの富士山の山頂があり、それぞれのそこまでの道のりがあると思っています。
頂上の景色を見られるか、そしてその旅路がかけがえのないものになるかは、他のチームによって左右されるものではなく、各チームの山登り次第なのです。

では、それぞれの富士山の山頂までたどり着けるチームの条件とは何なのか。多くの場合、100人いるチームの方が20人のチームよりも優位と思われがちですが、それは必ずしもそうではありません。
100人のチームでも、20人のチームでも、チームの誰かがその山を「登りたくない」と思えば、その人を他の誰かが担がないといけなくなります。
それが足枷になり山登りのスピードが一気に遅くなります。
逆に、チーム全員が頂上を本気で目指し、助け合って登ることができれば、そのスピードはむしろ加速します。
なので、100人であろうが、20人であろうが、山を登り切るための条件は一緒です。
必要なのは、【登りきる「情熱」】と【頂上までの明確な道のりとなる「計画」】だと思っています。

仮に、日本一の山・富士山を実際に登ろうとしていたとします。
頂上まで登るために、まずは計画が必要です。いつまでに、どんなペースで、どのコースを、どこまで登るのか。
計画せずに上ると、無理した分だけ体に異変が現れたり、無駄な寄り道をしてしまったりして、結果的に頂上に辿り着けないこともあります。
ただし、計画だけがあればよいというものでもありません。山登りは、上に登れば登るほど息苦しくなって辛くなります。
決して楽しいだけの道のりではありません。それでも頂上からの景色がどうしても見たいから、力を振り絞って頑張るわけです。辛くても乗り切れる情熱をそこに懸けられないと、息をのむ絶景は見られないのです。

ラクロスでも、これはチーム・個人、双方に言えることです。
ラクロスは自主運営の文化が根付いているからこそ、誰かに山登りを命じられるのではなく、自分たちで山頂を決め、そこまで登り切るためのプランを立てるのが一般的です。
いわゆる“年間計画”といわれる山登りの旅路を、シーズンの初めに描いているチームは多いかと思います。
青学でも実際、チーム全体の目標だけでなく、各係や個人単位でも年間計画や、それを区切った月間目標、そのためのアクションプランを定期的に考え振り返る機会を、学生・コーチともにつくっています。

下図は、青学のある年の個人の月間目標シート(左)と幹部用年間計画シート(右)です。

青学ではこういったものを活用しながら定期的に目標とアクションプランの振り返りを実施しています。
これらのワークのポイントは、“最終的な目標”から“明日やること”までを段階的に細分化し、具体的に考える習慣をつけることです。

年間計画の場合は、このシートを必ず右側から順に埋めていきます。
左側が最も直近の時期のため、左の欄ほどより具体的に記載しています。
個人の月間目標シートは上から順に最終目標→細かい練習メニューまで段階を踏んで細分化していっています。
これらを考える習慣をつけることで、「ゴールは見えないけどとりあえず歩く」のではなく、「富士山の山頂を見据えた今日の一歩」が明確になり、歩むべき道のりを無駄なく歩くことができるのです。これが「積み上げ思考」と「逆算思考」の違いです。

まだ少しイメージしづらいかもしれないので、直面しそうな練習メニューの組み立ての考え方の違いを紹介します。

例えば2週間後に練習試合があるとします。その練習試合に向けて残りの練習計8回のメニューを考えるときに、
「前日のメニューをベースに考えるか」
「8回の練習で何ができるようになっていたいかをベースに考えるか」
で大きくメニューの組み立ては変わってきます。

前者のチームは、8回の練習を、同じメニューを繰り返して組み立てることが多いのではないかと思います。
一方、後者の場合は、2週間後の練習試合における目標を設け、そこへ向けて逆算する、という考え方でメニューを組みます。
前日何をやったかももちろん大事ですが、それ以上に「残りの練習で何を達成したいか」、そのために「何にどれくらいの時間を割くべきか」に優先順位をつけて考えるのが、逆算思考のメニューの組み立て方です。

例えば青学では、練習試合までに習得したいDFの技術に対し、DFコーチが来られる日に集中的にメニューを行った方が効果を得られると感じれば、DFメニューしか行わない日を作ることもあります。また、
ATの新しい動きを習得するということの優先順位が高ければ、残りの全時間の8割をATに割くこともあります。

これは青学で幹部を務めていた卒業生が、引退後に教えてくれたことなのですが、目標から日々のメニューに落とし込むところまでの逆算ができるようになり、いま自分たちがなぜそのメニューをやるべきかに対する“納得感”が得られるようになったそうです。
そして、その先で一番変わったのは、メニュー後の振り返りの質だったとも言っていました。
メニューのやり方だけを理解している状態では「そのメニューをうまくこなすこと」にフォーカスしてしまいがちです。
ですが、最終的に達成したいことが理解できている場合、「そのメニューを通して何を習得したいのか」まで考えが及ぶことになります。
この差が、練習メニューに対する改善点のみを考える振り返りと、自分たちが目指す目標の達成度合いに対する振り返り、という大きな違いを生むことになるのです。

もちろん、積み上げることが大事なメニューもあります。特にグラボやシュートのような個人技術に関しては、毎日コツコツとどれだけできるかで結果が変わってきます。なので、逆算だけできればいいという話では決してありません。
ただ、日々のメニューにおいて、まだ多くのチームが「積み上げ思考」に偏った組み立て方をしてしまっているように思います。

過去を振り返って、できていないことができるようになるまで取り組み続けるのは大切なことですが、果たしてそれが本当に達成したいことに対して必要な取り組みか、最も有効な手段かを考えずに積み上げるのは違うと思います。
「前日何をしたか」や、「ATとDFの練習に均等に時間配分をする」といった、ありがちな考えだけに囚われず、達成したい目標に立ち返り、メニュー内容や時間を再度見直すことは、非常に重要だと思います。このように考え方を少し変えるだけでも自然と逆算する習慣がつきます。そして、この習慣が、どのような仕事に就いても実は当たり前に求められる能力のひとつなのです。

まだ社会人になって間もない頃、私は、翌日のスケジュールが頭に入ってないほど目の前のことに必死でした。
しかし、次第にラクロスの練習計画の逆算と日々の営業計画は類似点が多いことに気づき、ラクロスでの逆算に倣って、とりあえずまずは2週間の目標とすべきことを整理することにしました。
それを次の週も、またその翌週も繰り返しました。
そうすると、2週間の中で全てのアポをただ必死にこなすのではなく、その中でも特に重要なアポのためには前もって準備する余裕ができ、結果的に大型案件が獲得できるようになりました。
最近までやっていた仕事では、東京2020という2年先のイベントを見据えていたため、その時やっている仕事が何のための仕事か見失いそうになることもありました。そういったときは、必ず立ち返って目標を思い出し、頭の中で逆算してみました。
その結果、やっている作業が無駄であると思ったら、もっといい方法を考えていましたし、意味がある場合は、その意義を再確認できました。

自身で団体を立ち上げた今は、団体の1年先、3年先、10年先、そんなことをよく考えています。
日本代表のGM・HCとしても最近は日本ラクロスの10年先をよく想像します。
それを考えているときはワクワクします。

私の中の見たい景色を求めて、富士山を一歩ずつ山頂に向けて登っています。

皆さんにとっての「富士山」はどんな目的地ですか?

そこから見える景色はどんな絶景ですか?

そこまでの道のりはどのようなものですか?

その道のりは誰と歩みたい道ですか?

自分たちの「富士山」の頂上を追い求めて、夢の詰まった旅路を逆算してください。
自分たちで決めた道を、一緒に歩みたいと思った仲間と歩んでください。
たとえ頂上にたどり着かなくても、登りたくない山を登るよりも、一番登りたい山を登ってみてください。
志半ばでラクロスでの挑戦が終わっても、その仲間と、旅路の思い出、そして逆算する能力は、一生の財産になると、私は思います。

SELL代表
柴田 陽子

▶︎Profile
柴田陽子(1987年生まれ、兵庫県出身、神奈川県在住)
【学歴】
・大阪教育大学教育学部附属高等学校池田校舎卒業
・慶應義塾大学総合政策学部総合政策学科卒業
【社会人歴】
・アクセンチュア(SAPを専門に取り扱う部門でクライアント企業へのSAPシステムの導入プロジェクトに携わる)
・リクルート(リクルート住宅部門注文住宅グループ神奈川チームにて住宅雑誌「神奈川の注文住宅」の営業)
・WWE(米国最大のプロレス団体の日本法人にてマーケティング、ライセンシング、セールスなどをサポート)
・ナイキジャパン(通訳チームの一員としてスポーツマーケティング、ロジスティックス、テック、CSRなどの視察や会議の通訳および資料翻訳を担当)
・電通(オリパラ局の一員として東京大会の各競技のスポーツプレゼンテーションを企画。チームの国際リエゾンとして豪州のパートナー企業との交渉も担当)
・Second Era Leaders of Lacrosse(代表として団体創立に携わり現在に至る)
【ラクロス選手歴】
(所属チーム)
・慶応義塾大学女子ラクロス部(2005年~2008年)
・FUSION(2009年~2013年)※2010年~2012年主将、2013年GM
・CHEL(2014年~2016年)※2015年主将、2016年副将
(選抜チーム)
・U20関東選抜(2005年)
・U22日本代表(2008年)
・日本代表(2009年~2011年 )※2009年W杯参加
【ラクロスコーチ歴】
(所属チーム)
・慶応義塾大学女子ラクロス部AC(2009年)
・青山学院大学女子ラクロス部HC(2010年~現在)
(選抜チーム)
・U20関東選抜AC(2012年)
・U20関東選抜HC(2013年)
・U19日本代表AC(2015年)
・日本代表AC(2017年)
・全国強化指定選手団AC(2019年)
・日本代表GM兼HC(2020年~現在)
【主なラクロスタイトル】
(選手)
・関東学生リーグベスト12(2007年)
・東日本クラブリーグ優勝(2011年・2012年 FUSION、2014年 CHEL)
・全国クラブ選手権優勝(2011年 FUSION)
・全国クラブ選手権準優勝(2014年 CHEL)
・全日本選手権準優勝(2011年 FUSION)
・全日本選手権3位(2014年 CHEL)
(コーチ)
・全国最優秀指導者賞(2018年)


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