【こぶ平レポート】 「女子」ラクロス全日本大学選手権 1回戦 〜近年の各地区の進化〜
第13回全日本大学選手権は新しい勝ち上がり形式で実施される大会となり、前回優勝地区の関東地区2位チームがワイルドカードで出場し全7地区から代表が集まる形だ。そして11月6日に東北会場で始まった大学選手権が11月12日に3地区で1回戦が開催されベスト4が決定した。既にライブ・ストーリミングで観戦された方も多かったかもしらないが、こぶ平の見た1回戦についてお伝えしておこうと思う。先の男子編に続き女子編をお伝えする。
第13回ラクロス全日本大学選手権 女子1回戦
3地区の進化強さが際立った中一つの傾向が生まれつつある?
プロローグ
2012年東海地区代表の金城学院大学関西地区代表の同志社大学を破り決勝へ進出した以外は、関東地区と関西地区の決勝戦が定番となっている女子の全日本大学選手権(以下全学)も、2019年に北海道大学が宮城学院女子大学を破り男子北海道大学より早く北海道地区に全国大会の初勝利をもたらすなど変化の兆しが見えてきた女子全学。今年初めて岡山大学が全学に挑戦することや、関東地区の2校が全学決勝を関東決戦にするのか?それを阻止するのはどの地区かなど事前話題も多かった今年。
全国的に、一つの傾向が見えてきたと考えている。それは「新しい攻撃志向のラクロスを目指す」というものである。今期振り返ると関東地区のリーグ戦でお伝えしてきた中でも、特に慶應義塾大学が所属したBブロックの得点の取り合いの連続が象徴的だろう。そこでは東海大学vs法政大学の14対13を始め法政大学vs明治学院大学の11対11、東京農業大学vs東海大学の15対10のほかAブロックを含めて、10対10、10対9、10対8といった攻撃の応酬が見られる試合は目白押しだった。それは関東だけではなく、地区決勝においてでも、東北大学の13点、東海地区の南山大学vs名古屋大学の9対8、関西地区の関西学院大学vs同志社大学の13対7、中四国地区の岡山大学の15得点、九州地区の福岡大学vs九州大学の11対10 という結果からみても全国的に攻撃志向に向かっていると読み取っている。(私の持論。「女子ラクロスで10点を取って負けたチームはない理論」がうれしくも崩れた年だった。)
先に男子編で、男子学生ラクロスの全国で力の均衡化が進んでいる鍵が「守備力の向上」にもある、と述べたが女子においては真逆とも言える方向性となっている。これはなぜだろうか?一つの要因が考えられる。それは、
男女のルールの違いによる、守備の育成の難しさ
である。「3秒ルール」「フリースペース トゥ ゴールの侵害」*1といった女子特有のルールやヘビーコンタクトの許されない守備が要求され、大学から始めるスポーツとしては守備を強化しにくい面があるのだ。さらに、指導者の志向の変化や海外の攻撃的ラクロスのも入りやすくなった事(YouTube等)は男子と同じだろう。そういった傾向が読み取れる中7地区8校の代表が1回戦を戦った。しかしこの8校の中で異彩を放つ大学が1校ある。立教大学である。詳細は後の戦評の中で語るとして、その攻撃志向ラクロスのぶつかり合いとなった女子1回戦の模様を総括して行こう。
注*1;●3秒ルール:マンマークをしない守備選手が、ゴール前の11m扇型内に3秒以上留まっていたら「3秒ルールのファール」。つまり守備側の待ち伏せはできずより攻撃のブレイクポイントが作りやすくなる。
●フリースペース トゥ ゴールの侵害(シューティング・スペースの確保)
ボールを持った選手が、相手ゴールの11mエリア内に入って来たとき、その選手とゴールサークルを結ぶエリア(フリースペーストゥゴール(FSG))に、守備側の選手が入ること。守備側の選手に、ペナルティが与えられる。守備側の選手にボールが当たる危険を防ぐためのルール。
東北大学 対 南山大学|7対14 で南山大学の勝利
先ずは攻撃志向ラクロスのぶつかり合う典型的な試合の決着。個の力のぶつかり合いで優位に立ったチームが勝ったケース。特にドローを制した2Q、3Qで試合を決着させた南山大学は、関東地区との交流を通じて、又学外のコーチを招聘し新しい思考を取り入れ「打倒関東」を目指してきた長年の強化策が実って来た上に、個の力の強い選手が集まって来た(典型的な選手はラグビーをやっていてラクロスに転身した3番藤井選手)事から多くの選手が得点を上げ勝ち切れるチームとなったようだ。一方の東北大学もけがを克服し東北地区決勝から復活した20番中山選手や15番中野選手といった突破力のある選手の動きは魅力的で、特に中山選手とMFの55番古田選手は夏前に行われた日本代表チームと戦う選抜チームに選ばれた3年生であるだけにこの経験を糧にして来年には更に力強いチームとして大会に戻ってきて欲しい。
両チームの枠内ショット率の高さ(東北71%、南山83%)は見事であり東北大学ゴーリーズの11セーブも又見事なものだった。
関西学院大学 対 北海道大学|23 対 3で関西学院大学の勝利
今年の関西学院大学(以下関学)の個の強さをまざまざと見せつけた試合となった。関学の攻撃志向の源は圧倒的な個の力であり、点の強さを全員が高め面の強さとして支配をするラクロスは、特にドローをも圧倒した後半の攻撃で実証された。ターンオーバーにつながる接点での強さもしっかり見てとれた。50番秋川選手 5点だけではなく途中出場の77番平野選手、56番小曾根選手が後半だけで4得点を上げるなど、関西地区決勝でMVPとなった91番東浦選手以上の得点力を見せた事は次に繋がる形にもなったと言える。関学の枠内ショット率84%は見事な数値で2試合続けて高い数値を(対同志社戦71%)示した事は関学の強さの証明であろう。一方の北海道大学は強烈な攻撃にさらされる中、14個のセーブを記録した10番岩谷選手を核とするゴーリーズは見事だった。現在クラブチームのNeOで活躍するOGの40番齋藤選手から連なる系譜というのが生きているようだ。
岡山大学 対 慶應義塾大学|2 対 18で慶應義塾大学勝利
関東学生リーグ決勝戦編で述べた、慶應義塾の攻撃的ラクロスは南山大学とも関西学院大学とも異なる攻撃ラクロスと考えている。確かにドローの強さ、オールコートオフェンスの強さという共通点はあるが、守備の強度と連携して相手の攻撃権をも奪い取る強さも持つ、守備も強いトータル攻撃ラクロスを展開するのが慶應義塾であると考えている。初出場の岡山大学に対して、ショット、ドローも抑え込んだ。特にフリーショットを与えなかった組織的な守備は攻撃面に目が行きがちな中、準決勝以降の大きな武器になると考えている。攻撃面では多くの選手が可能性を示せたことでも成果の大きな試合だった。特に過去の試合では種々の要因もあったが、アシストに回ることが多かった74番秋山(雅 3年)選手が本来の点取り能力を発揮し5点を挙げた事は慶應義塾の攻撃の幅を広げる意味で大きかったと言える。さらに全8チームで最高のセーブ率(60%)を上げた慶應義塾の51番藤田(4年)2番栗山(3年)選手ゴーリーズは準決勝以降も相手チームに取って脅威となるだろう。
一方岡山大学1番小坂選手の1on1の突破力は注目に値するスピードで全国レベルであることを証明する2得点だった。岡山大学は3年生以下が多い若いチームであるだけに、全国大会で通用した部分を磨き、足りなかった部分を強化して来年再びこの大会に戻って来た時、脅威となるチームになっているはずだ。因みに岡山、慶應義塾の枠内ショット率は80%を超えており更に岡山大学10番小寺選手を核とするゴーリーズの17セーブという数値も又驚異的だった。若いゴーリーも経験できたことは未来へと明るい材料になったはずだ。
福岡大学 対 立教大学(関東地区2位ワイルドカード)|4 対 16で立教大学の勝利
この試合は、個人的には最も注目をしていた試合だった。関東学生リーグ決勝戦編で述べた通り、1番(立教大学の1番へ毎年年度のエースがつける番号と決まっている)の離脱により関東地区最終戦で新しく攻撃のパターンを試さざるを得なかった立教大学の種々の試みの結果を見るうえでこの試合が試金石になると考えていたからだ。結果的には関東地区決勝で検証した攻撃の結果は出せた試合となり、先のコラムで指摘した福岡大学の強い個のブレイクによく対応した結果の大勝だったと言える。
序章で書いた「異彩を放つ立教大学」とは何か。今回大勝した事から立教も攻撃志向のチームだと見えるが、攻撃を起点に組み立てる慶應義塾、南山、関西学院に対して、特徴としてデフォルメをすると実は立教は守備的なチームである。スターティングメンバーは常にアタック2枚から3枚以外はすべて守備的な選手を並べ、オールコートのハイプレスからボールを奪い相手に攻撃機会を与えないのが基本である。ボールを奪うと1度溜めてから、ゴーリーを含めて数的優位を作りクリア、ポゼッションをキープする。通常の攻撃のターンで2分以上を掛ける形で、高い決定力を武器に勝ち抜いて来た点で、他の7チームと全く異なるチームだと言える。ただ、絶対エースの1番ジョーンズ選手の離脱による決定力の低下が懸念されたが1回戦で最も高いショット決定率(57%)を示し新しいブレイクスルーを自家薬籠中のものとしえた事は準決勝に向けて大きな成果である。元々150人を超える部員の中から競い合って選抜された選手たちの集団でありエースを失う非常事態に、個々の才能が覚醒したと言っても良いだろう。
一方の福岡大学だが、先の日本選抜に選ばれた10番主将の蒲池選手や11番エース元村選手。さらに15番の奥長選手など1on1のブレイクは立教の強い守備の脅威となった。守備だけでなく、ショット等の技術の向上を図り、さらに選手層の厚さ(50人程度の選手。現在35選手、内14人が1年,10人が2年,5人が3年)が増すことも勝ち抜くには必要かもしれない。この試合でもほぼスターターの10人でゲームをしていた。攻守で大幅に選手を入れ替える立教大学とは両極端のチームの戦いだったが、全学を勝ち抜くためにはあと少しの層の厚さを必要としそうだ。ただ、この試合で得点を挙げた30番田代選手(2年)を代表に若いチームの福岡大学。来年へ進化しかないチームに注目をしていきたい。
こぶ平’s View
スタッツから見えた事は2つ。
- 準決勝に勝ち残った4校は全て高い枠内ショット率を示している。
- ターンオーバーの数からみても、関東2校のチームは守備も強い。
という事だ。即ち、南山大学、関西学院大学はここにきて初めて自分たちより強いかもしれない守備力のチームと戦うことになる。ここが勝負のポイントとなるだろう。今まで攻撃を支配する事で相手の攻撃する機会を減らしてきた、南山、関学が互角ないし攻撃機会が少なくなる状況になったときにどのようなブレイクスルーを持っているのか。逆に南山、関学の個の力が関東の守備力を打ち破るのか。そこに注目して試合を見て欲しい。
準決勝の見どころは、「東海、関西の矛が関東の盾を破るのか」である。
なお、女子の攻撃型チームの台頭については別途特集で述べたい。特に関東では立教大学、慶應義塾大学の他にも「アリ地獄ディフェンスの明治大学」や「鬼マンツーの日本体育大学」等守備にも強いチームがやはりファイナル4に君臨しているのだ。それにはそれなりの理由がある。
全日本大学選手権 準決勝
準決勝は11月19〜20日に開催される。
関西学院大学 対 立教大学は11月19日(土) @たけびしスタジアム京都
特に注目は「関学50番秋川選手と立教8番水倉選手のマッチアップ」である。
南山大学 対 慶應義塾大学は11月20日(日) @名古屋市港サッカー場
昨年に続き2年連続のベスト4での関東とのマッチアップとなる南山大学。昨年は5対9と2017年の対慶應義塾、2019年の対立教よりも力を増してきていたが、今期最大の攻撃力で関東を席巻した慶應義塾に対して21番他多才な選手を軸にした多彩な攻撃陣が機能するのかに焦点を当てがちだが、最も注目すべきは「南山大学3番藤井選手の強い(先にも述べたが元ラグビー選手.もしくは15番神戸選手だが)ドローが慶應義塾大学のドローを上回れるか」であろう。
準決勝はひと時も目を離せない展開になるはずだ、是非現地で試合を見て欲しい。
次回は速報版 全日本クラブ選手権、全日本大学選手権・準決勝をお送りする予定だが、中高ラクロス情報が遅れています。間もなく書きあがる予定です。お待ちください。
やっぱりラクロスは最高!
こぶ平