【こぶ平レポート】 第13回全日本大学選手権|男子決勝 〜 作戦が錯綜する奥の深い戦い 〜
第13回全日本大学選手権は新しい勝ち上がり形式で実施される大会となり、前回優勝地区の関東地区2位チームがワイルドカードで出場し全7地区から代表が集まる形で始まった。そして11月6日に東北会場で始まった大学選手権が11月12日に3地区で1回戦が開催されベスト4が決定し、11月19日20日両日渡り準決勝が実施された。結果的に男子は関東リーグ戦からの出場校が強さを見せ、全日本大学選手権決勝は関東大学リーグ戦の再戦となった。既にライブ・ストーリミングで観戦された方も多いはずだが、こぶ平の見た決勝についてお伝えしておこうと思う。
第13回全日本大学選手権 男子決勝
種々の作戦が錯綜する奥の深い戦いが繰り広げられた
プロローグ
先の準決勝の詳報で、「慶應義塾の攻守のバランスを取れたシステム化ラクロスに対して、調子を上げてきた明治の守備陣がどう立ち向かうかが焦点となりそうだ。」と述べた。
ポイントは明治大学ゴーリー1番伊藤選手だが、関東決勝時よりも体調は良さそうであり研ぎ澄まされた感覚はちょうど全学決勝戦にピークを迎えそうな気がする。勿論明治大学の守備が上手くゴーリーの守備範囲でショットを打たせている部分も大きいがやはり伊藤選手のパフォーマンスが試合の行方を左右することは間違いない。そしてその守備力で慶應義塾を5点以内に抑え込めるかが勝敗の分かれ目であり、更に明治が6点を取れるかがもう一つのそして最大の課題となる。その課題克服の為に必要な事はショット決定率を上げる事。そして何より枠内ショット率を上げることが必要だと考えていた。
慶應義塾としては関東決勝時よりもFO獲得率を上げていくことが試合のペースを握る上で重要な事だと考える。その意味では33番石井選手と99番松澤選手のパフォーマンスも鍵となりそうだ。詳しく触れていく。(以下学校名は略称表記)
慶應義塾大学 vs 明治大学大学|結果は4 対 3 で慶應大学義塾勝利
スターター
- 慶應義塾大学 G2番岸(4年)、LDF5番中根(4年)、6番吉田(4年)、22番小川健(2年)、LMF17番塩原(4年),FO33番石井(4年)、SSDM8番神津(3年)、AT1番中名生(4年)、7番小川司(4年)、30番齋藤(4年)
- 明治大学 G1番伊藤(U-21日本代表/4年)、LDF3番芳村(U-21日本代表/4年)、19番曽根崎(3年)、99番白石(4年)、LMF23番西村(4年)、FO35番篠塚、SSDM5番古賀、AT4番戸山、6番加茂下(4年)、9番田部井(4年)
ポイントとして挙げた慶應義塾大学FO(ファイスオファー)33番石井選手、明治大学G(ゴーリー)伊藤選手ともに全日本大学選手権に向けてピークを合わせてきた良さ、集中力を見せる中、「ハーフウェイオフェンスの慶應義塾」vs「ハーフウェイディフェンスの明治」という図式で試合が始まった。
<1Q> 慶應義塾 2 対 1 明治
最初のFO、強さを見せた慶應33番石井選手。ポゼッションから相手の守備陣の出方をうかがいながらもショットを放った慶應。しかし明治67番白取選手(4年)がパスカットをするとクリアからポゼッション。やはりじっくり時間を掛けて慶應守備陣の出方、システムの再確認をしながらボールを動かしていく。しかしストーリングを宣告されやむなく打ったショットは角度がなくセーブされ慶應ターンオーバーも明治DFは崩れず強いプレスでボールを奪うとクリアポゼッション。明治10番藤木選手から回ったパス6番が正面DFを交わしてショット一閃左下隅へ完全にコントロールされたショットが決まったのが開始8分30秒、この試合はロースコアになると思わせる出だしとなった。1Qボールが落ち着かない慶應に対して追加点の欲しい明治。しかしオフサイドを犯し慶應は攻撃権をもらうとポゼッション裏から1番のパスが左クリース際フリーの11番貝柄選手に渡り難なくショットを決めて同点に追いつく。続くFOを3連続で取った慶應義塾。ポゼッションから最後は1番中名生選手の1on1ドッジステップでDFを交わしショットを打ち込んで逆転した。残り30秒最後に慶應インサイドからブレイク仕掛けたがショットは明治ゴーリーがセーブ。ターンオーバーのロングパスが通ったところでホイッスル。
<2Q> 慶應義塾 2 対 0 明治|トータル 4 対 1
1QFOをすべて制した慶應。開始早々のFOは明治に粘られたが、直ぐに奪い返しそのままポゼッションから1番の裏まくり。勿論想定済の明治DFが対応枠外に外れさせる。1Qから得意のミドルショットを狙わずインサイドを狙う慶應義塾の攻撃に明治のDFが嵌らず乱れが生じていたが何とかLDFの上手いDFによりターンオーバーするも、慶應義塾のDFは崩せずショットを打たされる形でターンオーバーとなる。慶應のポゼッションから明治が警戒するミドルショットのフェイクからインサイドを突きショットを決めたのが慶應37番入谷選手。ここまでの戦いで、関東決勝と異なるインサイドブレイクを多用した慶應の作戦が奏功したと言える場面だった。その後も明治の守備のミスマッチが続き立て続けに慶應にインサイドブレイクを許すが明治ゴーリー1番の3連続セーブに助けられ失点には至らなかった。しかし慶應の攻撃は止まず慶應11番のミドルも襲う。しかし明治ゴーリー1番伊藤選手抜かせず踏みとどまった。明治ゴーリーの5連続セーブで窮地を脱するとクリアからポゼッションを取る明治に対し慶應DFも簡単に仕事をさせない。しかし、グラボは明治が頑張りターンオーバーは許さない。そして明治のタイムアウト後慶應がダブルチームでライドを駆け明治ボールを刈り取る作戦が奏功する。ボールをスクープしたのは慶應義塾22番小川健選手。そのままドライブを掛け一気に60mを駆け抜けゴール前3mからショットを叩きつけると、さしもの明治ゴーリーといえども対応できない驚愕のLDFによるゴールが完成した。ここまで、タイムアウト後のダブルチームでのプレスと言い、ミドルレンジではなくインサイドのブレイク中心の攻めが有効となるなど慶應義塾の立てたプラン通りの展開となっていった。その後残り6分から明治は守備が集中力を高めターンオーバーに繋げるとラスト3分間攻め続けたが慶應のスイッチングマンツーマンゾーンハイブリットDF(絶妙にターゲット選手のチェックを受け渡しするマンツーマンDF?でもゾーン?素人にはわからないのでハイブリットDFとした)を破れず有効なショットが打てないまま終了した。
試合終了後に明治のゲームキャプテンに話を伺ったところ明治が試合前に想定した慶應の攻撃システムと真逆のプランとなり完全に後手に回ったという事だった。後半、この戦い方に変化を掛けるのはどちらなのか?注目はその点に集まった。
<3Q> 慶應義塾 0 対 2 明治|トータル 4 対 3
ここまで直後のターンオーバー成功も含めすべてのFOを取って来た慶應、3Q最初のFOも取り切り優位な流れを継続したかに見えた。最初のターンは慶應。ここでこの試合初ともいえるミドルショットを37番が放ったものの、明治1番ゴーリーが難なくセーブ。やはりインサイドブレイクの方が有効と思わせる場面だった。その後お互いのライドの応酬から抜け出したのが明治LDF3番芳村選手(U-21日本代表)イメージ通りの速攻4番へのロングフィードを通して4番戸山選手フリーランシュー決めた。明治狙いの守備からのブレイク攻撃が成功し守備も修正され追い上げの舞台が整った瞬間だった。FOは取られるが、狙い通りのライドからのブレイクこれをショットまで結び付けられるかがポイントとなった。しかし慶應義塾も想定内だったのだろう。その後は点差を詰めたい明治の攻撃時間が長くなったが容易に慶應のDFを崩せない。しかし明治DFもライドを仕掛け慶應のショットは許さない。明治マンダウンからのSSDM5番古賀選手のパスカットをブレイクに繋げマンダウンから戻った10番藤木選手が数的優位となりゴール前6番加茂下選手へのフィードを一瞬遅れた慶應DF3枚の隙に決め切った。SSDMが機能したブレイクオフェンスの最高結果だった。一方の慶應はミドルショットを封じられ、インサイドブレイクに行かざるを得ないところ明治が修正したDFにショットの機会も与えられなかった。その間明治の攻撃時間が長くなった事もあるが、慶應持ち前のAT6人が連動し誰からでもショットを打てる攻撃が、その連動を止めたように見えるほど単発的な仕掛けに終始した。この終わり方は明治が関東リーグ戦Final4で勝利を演出した早稲田戦を彷彿させる物であり4Qのドラマに応援席の期待の高まりを感じた。
<4Q> 慶應義塾 0 対 0 明治|トータル 4 対 3
3Qで停滞した慶應の動きもFOが助けたと言える。ここまで1度の直後のターンオーバーを含めて10回すべてをマイボールにしたFO。4Q最初も33番石井選手が獲得し明治に攻撃機会を渡さない。しかし慶應もこれを有効なショットに結びつけられない。以降も、慶應義塾は攻撃の有効手段が見えず明治の攻撃に耐える時間が続いた。その後は残り3分となるまでお互いセットの攻撃に賭ける緊迫した空気が見ている方にも感じられた。タイムアウト後の明治の攻撃早稲田を逆転した攻撃のセット88番不破選手も加わりショットの機会を作りに行く。残り2分を切って明治にストーリングの警告が出され、多少強引にショットに行くが慶應13番中西選手が立ちはだかる。セーブのボール慶應が奪ってターンオーバーしたのが残り1分。明治のスラッシングで慶應が逃げ切るかと思われたが明治もリスクを承知でプレス掛ける。ストーリングの警告が出るが慶應、試合前に危惧されたリストレラインが見分けにくいところ踏み出して、明治ボールとなって残り30秒。明治の速攻を37番入谷選手のパスカットで切り抜けた慶應。マンアップを利して最後はキープを仕切って慶應が逃げ切った。
一方の明治大学は4Qでの逆転を期して強い圧力で攻め続けたが、試合巧者の慶應義塾大学を抜き切る事はできなかった。
この試合のMVPとVPは下記の選手となった。
最優秀選手 慶應義塾大学 33番FO 石井ヴィクトール慶次選手(4年)
フェイスオフ10/11(1回は99番松澤選手。明治が取った1回もすぐに奪い返し実質完封したのは勝利の最大の要因だった)
優秀選手 明治大学 1番G 伊藤駿選手(4年)
決勝戦でも11セーブを記録。頼もしい守護神だった。
こぶ平’s View
① 慶應義塾を追い込んだ明治の進化の背景は何だったのか
スタッツを見ると気づくことがある。関東決勝と比較してみよう。
- 慶應義塾の後半のショット数が半分以下になっている。
- 両校のゴーリーのセーブ率が向上している
試合後明治大学のゲームリーダーLDF3番芳村選手にお聞きした所、
「前半明治が採用した守備システムは関東決勝以降見直して、全国大会の京都大学戦でテストし、非常にうまく機能したシステムだった。それは、ショットは打たれても、ゴーリーのセーブできるコースに追いやって決められないというシステムだった。これはミドルショットに強みのある慶應義塾にも有効なものだと考え、決勝で採用したシステムだった。しかし、慶應義塾のスカウティングが確かだったのだろう、逆にインサイドを突かれる形で前半に失点を重ねたのが痛かった。実際後半はシステムを変更しインサイドを強くした結果、慶應義塾のショットの機会を奪うことができた。3Q最初のミドルをゴーリー伊藤選手が止めた事でさらに慶應義塾のショットの機会を限定できたとは思っている。誤算はやはり想定(6対4で勝ち切る)通りに攻撃が進まなかった。というか守備からのブレイクで得点をするのを4点と想定していた。その機会はあったが決め切れなかった。」
即ち、明治の守備が後半完全に機能し、4失点という想定内に抑えきれたことが大きい。実際慶應義塾の後半のシュートは6本に過ぎずそれも3本は枠外である。枠内にショットを行かせなかった明治の守備システムこそ、慶應義塾を追い込んだ最大の要因だった。そしてこれにはLDFだけではなく献身的なSSDMの働きが不可欠であり改めてSSDMの重要性がクローズアップされた試合だった。特にSSDM5番古賀選手の動きは出色だった。勿論この守備システムが取れたのは、1番ゴーリー伊藤選手への絶対的信頼があったからだという事は敢えて付記させていただく。
② 慶應義塾の強さの秘密は何だったのか
恐らく、学生ラクロス界でNo.1の得点力を持っていただけにある程度の得点を取ることができる想定だったに違いない。しかしそれが果たせなかった。普通はそこで敗れる方向へと行ってしまうのだが(敢えて挙げて済みません。関東リーグ戦の早稲田大学がそのケースだった。)慶應義塾は踏みとどまった。その理由は2つあると考える。
- 後半の不利な状況において獲得し続けたフェイスオフ
- 明治ゴーリーに匹敵するセーブ率を獲得したゴーリーズの活躍
特に4Qで見せた慶應義塾13番中西選手のセーブが慶應義塾を救ったと言える
付け加えるならば決勝点となった4点目を決めた、LDF22番小川健選手(2年)の決断にも大きな拍手を送りたい。こういう形で救世主が現れる事も勝ちには必要だ。とにかく、ベンチも含めた総合力の高さが慶應義塾大学の本当の強さの秘密なのだと思い知らされた。
最後に3週間の間にチームの強度を高め、慶應義塾大学を追い詰めた明治大学のラクロスに個人的には最大の賛辞を贈りたい。リーグ戦当初は攻撃力が見えない負けないラクロスの印象を持っていたことを、改めて謝罪するとともに来季に向けてもう1段ブレイクラクロスを進化させて日本一を獲得するチームになられることを期待してやまない。
全日本選手権 決勝
決勝は12月18日(日)に 東京江戸川区陸上競技場にて開催される。
慶應義塾大学は作年に続き連覇を狙う。
U-21日本代表として世界選手権に参加した主将11番貝柄選手が率いる学生No1のアタックと、いろいろなタイプの攻撃に対応するハイブリットなディフェンスを擁する慶應義塾が、更に強力な攻撃陣を擁するクラブチームに対して、昨年のように上手く攻撃を封じ込めるか?興味は尽きない。特に決勝で圧倒的支配力を見せたフェイスオファー33番石井選手に注目をしている。
次回は全日本クラブ選手権レビューと決勝の展望についてお送りする予定だ。
関東中高ラクロス秋季大会の決勝についてはその後で。
やっぱりラクロスは最高!
こぶ平